名古屋の企業法務、離婚、相続、交通事故は、大津町法律事務所(弁護士 馬場陽)愛知県弁護士会所属

名古屋の企業法務、離婚、相続、交通事故は、大津町法律事務所

〒460-0002 名古屋市中区丸の内三丁目5番10号 大津町法律事務所(☎052-212-7840)営業時間 平日9:30~17:00

離婚の相談

養育費の金額の計算方法

1.養育費は子どもを監護する費用」

 未成年の子どもの父母である夫婦が離婚する場合、子どもの親権は、父または母のいずれかに定められます(民法819条1項、2項)。
 そのため、子どもは、両親が離婚した後は、どちらかの親のもとで監護をされます。
 この場合に、子を監護しない親、あるいは、子を監護できないことになった親は、子を監護する親に対して「子の監護に関する費用を分担することとなります(民法766条1項、2項参照)。
 この子の監護に関する費用を、実務上、養育費と呼んでいます。

2.養育費の額は、合意によって定めることができる

 この養育費の金額は、父母の合意によって定めることができます。
 例えば、協議離婚をする場合に、父母の間で養育費の金額について合意ができるならば、合意された金額は著しく不当なものでない限り有効であり、義務者(養育費を支払う当事者)が支払うべき養育費の額は、その合意された金額となります。
 この場合には、特別の手続は必要ではありません。父母の協議によって養育費の金額を定めれば、それで合意は成立します。
 もっとも、養育費に関する父母の協議の内容を、どのようにして証拠に残しておくかという点は問題です。
 将来の紛争を予防するためにも、離婚協議書を作成しておくことをおすすめします。権利者(養育費をもらう当事者)の立場であれば、協議の内容を公正証書にしておくことが手堅いといえます。
 当事者間でうまく合意ができない場合でも、家庭裁判所の調停という手続の中で話し合いをすることができます。
 家庭裁判所では、裁判所が選任した調停委員が、話し合いの手助けをしてくれます。
 調停では、当事者同士の合意による解決を目指しますので、ここでも、著しく不当なものでない限り、当事者間の合意によって定められた金額が、義務者が支払うべき養育費の金額となります。

3.裁判で決める場合の計算方法

 どうしても当事者間で合意が成立しないときは、家庭裁判所の審判という手続を利用します。審判では、家庭裁判所の審判官/裁判官が、当事者双方から提出された資料をもとに、適正な金額を決定します。
 すでに離婚の裁判がはじまっていて、離婚の裁判の中で養育費の金額が争われているような場合にも、裁判官が養育費の額を決定します。
 この場合の計算方法については、いくつかの考え方があり得ますが、現在の家庭裁判所実務では、東京・大阪の裁判官による共同研究の成果として公表された次の計算式(注1)によることがほとんどであると思われます。
(計算式)
 (1)基礎収入=総収入×0.34~0.42(給与所得者の場合)(高額所得者の方の割合が小さい)
    基礎収入=総収入×0.47~0.52(自営業者の場合)(高額所得者の方の割合が小さい)
 (2)子の生活費={義務者の基礎収入×55or90(子の指数)}÷{100+55or90(義務者の指数+子の指数)}(注2)
 (3)義務者が分担すべき養育費の額=(子の生活費×義務者の基礎収入)÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)

(注1)「簡易迅速な養育費の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」判タ1111号285頁参照。
(注2) 「子の指数」は、生活保護法第8条に基づき厚生労働省によって告示されている生活保護基準のうち、「生活扶助基準」を利用して積算される最低生活費に教育費を加算して算出した金額です。親を100とした場合、年齢0歳から14歳までの子については55、年齢15歳から19歳までまでの子については90とされています。

4.算定表の利用が簡便

 以上の計算式は複雑ですので、簡便な調べ方として、上記の計算式をもとに作成された養育費・婚姻費用算定表を参照することもあります。
 この算定表は、裁判所のウェブサイトで公開されています(リンクはこちら)。

5.計算式でカバーできない事情

 以上、実務上広く利用されている計算方法を紹介してきましたが、このような算定方法にまったく問題がないわけではありません。
 たしかに、この種の計算式を導入することは、全国で類似の事案を同じように解決することを可能にし、公平性と予測可能性を担保できるという大きなメリットがあります。
 一方で、ひとたび計算式が実務に定着すると、計算式そのものに対する合理的批判や時代の変化、個別の事情といったものは、事案の解決に反映されにくくなります。
 どのような事情を反映し、どのような事情を捨象すべきかという点について、さらにコンセンサスを形成していく努力が必要です。

※ 2015年3月1日現在の情報に基づく解説です。

弁護士 馬場陽
(愛知県弁護士会所属)

婚姻費用はいつから請求できるか(過去の婚姻費用の支払義務)

1.婚姻費用は生活のための費用

 夫婦の生活費、子どもの養育費を含め、夫婦が「その共同生活において、財産 収入 社会的地位等に相応じた通常の生活を維持するに必要な生計費」を、婚姻費用といいます(大阪高決昭和33年6月19日)。
 婚姻費用の分担額は、それぞれの収入や監護している子どもの人数、生活環境等により、協議、調停、審判によって定められます。

2.過去の婚姻費用も

 そのため、婚姻費用の分担額に争いがあるようなケースでは、交渉、調停、審判を経て婚姻費用が支払われるまで、数か月から1年くらいかかるのが通常です。
 このように、婚姻費用の分担が必要になってから実際に支払が始まるまでしばらくの期間があることから、実務では、婚姻費用はいつまでさかのぼって請求できるのか(いつまでさかのぼって支払わなければならないのか)が論点となりました。
 この点についての考え方は、大きく次の3つに分類できます。

  • (ア)婚姻費用の分担を必要とした事情が認められる当初までさかのぼって分担関係を定め得るとするもの(東京高決昭和42年9月12日)
  • (イ)扶養義務者において支払の必要性を認識したとき(認識できたとき)にさかのぼって支払を命じるもの(大阪高決昭和58年5月26日)
  • (ウ)公平の観点から、扶養権利者が扶養義務者に婚姻費用の分担を請求した時点から支払を命じるもの(東京高決昭和60年12月26日)

 現在は、(ウ)の請求時説に立つ審判例が多いといわれています(梶村太市「離婚調停ガイドブック(第4版)」日本加除出版、243頁参照)。

3.請求時より前の未払婚姻費用は財産分与で清算される

 それでは、(ウ)の説に立った場合、請求時より前の婚姻費用の清算はなされないのでしょうか。
 そうではありません。
 こちらも説が分かれていますが、多くの場合、未払いの婚姻費用は、財産分与の内容を決定するときに考慮できると考えられています。

4.財産分与で清算できないこともある

 とはいえ、離婚に伴う財産分与の時点(あるいは財産分与の基準時点)において、夫婦共通財産がほとんどなければ、事実上、財産分与での清算は期待できません。
 また、夫婦共通財産の範囲や評価に争いがあって紛争の長期化が予想される場合など、早期解決のためにどちらかが譲歩しなければならないこともあるでしょう。そのような場合にも、財産分与の段階で未払婚姻費用を適切に清算することは困難となるものと思われます。
 したがって、婚姻費用の分担をいつの時点で請求していたかという点は、最終的な経済的給付の額を予想する上で、実務上も重要な判断材料の1つとなっています。

弁護士 馬場陽
(愛知県弁護士会所属)

※ 2016年2月13日現在の情報に基づく解説です。

離婚原因としてのモラルハラスメント

1.モラハラは精神的暴力

 近年、離婚事件の中で、モラルハラスメント(いわゆるモラハラ)について相談を受けることがあります。
 モラハラは、フランスの精神科医であるマリー・フランス・イルゴイエンヌが提唱した概念で、簡潔に定義を示すことが難しいのですが、言葉や態度で相手の心を傷つけ、支配していくやり方を一般にこのように呼んでいます(橋本智子=谷本惠美=矢田りつ子ほか「Q&Aモラル・ハラスメント」明石書店、12頁参照)。
 モラハラという言葉が日本の法廷に登場したのは比較的最近であると思われますが、現在モラハラと呼ばれている現象の一部は、例えば配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆる「DV法」)1条にいう「身体に対する暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」として、あるいは心理的虐待の一種として、以前から離婚等の裁判でも取り扱われていたように思います。

2.モラハラの具体的態様

 モラハラの具体的態様は様々ですが、例えば、次のようなものがあります。

  • 些細なことで激昂する
  • 無視をする
  • 会話をしていると、何もかもこちらが悪いことにされてしまう
  • 反論すると無関係の論点を持ち出して攻撃されてしまい、こちらが負けるまで話が終わらない

 これによって、被害者は、どこに加害者の怒りのスイッチがあるかまったくわからなくなり、加害者の顔色をうかがいながら生活するようになります。最終的に、被害者は、加害者が機嫌を損ねると自分に原因があるのではないかと思って自分を責めるようになり、支配が進行していきます(注1)。

(注1)例えば、橋本ほか・前掲書14頁には、エアコンをつけていいかと聞けば「いちいち聞かなければわからないのか!」といって怒り、黙ってつければ「勝手につけるな!」といって怒り、つけなければ「こんなに暑いのに」といって怒る人物の例が紹介されています。

3.モラハラも離婚原因になる

 それでは、これらの行為は、離婚原因に当たるのでしょうか。
 決め手となるのは、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があるといえるかどうかです(→離婚原因については、「どうしたら離婚できますか?」をご覧ください)。
 加害者の行為が俗にモラハラといわれる言動に当てはまるとしても、加害者の行為の執拗さは様々ですし、被害者の耐性も様々です。
 また、モラハラという言葉が一般化するに従って、提唱されたときの本来の意味よりもはるかに広く安易に使用されるようになり、使う人によってイメージしている水準が違うのも、混乱の原因です。
 したがって、「モラハラが離婚原因になるか」と問われたならば、「離婚原因となり得る」というのがひとまずの回答になります。ただし、そこでいわれている「モラハラ」がどの程度の言動を意味しており、どの程度の抑圧を受けているのか、そのイメージを共有した上でなければ、具体的な回答はできないといえるでしょう。
 DVや心理的虐待に当たると評価される程度のモラハラであれば、それだけで「婚姻を継続し難い重大な事由」と言える場合が多いと思いますが、そこまでに至らない場合(モラハラのような言動)は、他の事情との総合判断で離婚の成否が決定されるものと考えられます。 (さらに…)

20歳を過ぎた子どもの養育費を支払う必要があるか

1 養育費とは、未成熟子を養育するための費用です

 養育費とは、一般に、未成熟子を養育するために親が負担する費用であると説明されています。
法律上は、民法766条1項に定める「子の監護に要する費用」がこれにあたり、父母は、その離婚に際し、子どもの養育費について取り決めをすることとされています。

2 一般的には満20歳まで

 それでは、ここでいう未成熟子とは、どのような子どもをいうのでしょうか。
 一般的には、満20歳になるまでの未成年者が未成熟子であると考えます。
 家庭裁判所の調停や審判・判決でも、父母の離婚にあたり、子どもが満20歳になるまでの養育費を定めることがほとんどです。
 したがって、全国の家庭裁判所は、上記のような考え方に基づいて運用されているものと考えられます。

3 成人しても養育費がかかる場合がある

 しかし、中には、子どもが成人していても、未成熟子あるいは未成熟子に準じるものとして、扶養料の支払いが命じられる場合があります。
 例えば、成人の子どもが現在大学生で、学業と仕事の両立が難しく、当面の間は親の仕送りで生活しながら学業に専念するほかないような場合、裁判所は、これを未成熟子あるいは未成熟子に準じるものと考えて、例えば満22歳や大学卒業の月まで養育費の負担を命じることがあります。
 あるいは、もうじき子どもが成人するけれども、病気や障がいのためすぐに働かせるのが難しく、稼働までしばらく監護を要するような場合、子どもが成人してからも、一定の年齢に達するまで養育費を負担する必要があると思われます。

4 未成熟でなくても扶養義務がある

 もっとも、民法は、親子の間には、互いを扶養をする義務があるとしています(民法877条)。
 つまり、仮に、子どもがすでに成人しており、未成熟子とはいえないとしても、子どもに収入がなく、親に収入があるならば、親は、子どもを扶養するため、一定の生活費を負担することは避けられないのです。
 ですから、子どもが未成熟子かどうかということを議論する意味はそれほど大きくはありません。
私も、理論的には、成人の子どもの場合、別居親が同居親に対して養育費を支払うのではなく、別居親と成人の子どもが互いに大人同士として話し合い、学費や扶養料の取り決めをするのが本来の姿であると思います。

5 無職の子どもの稼働能力は考慮されるべき

 ところで、親が成人の子どもに対しても扶養義務を負うとすると、働く能力が十分あるのに働かない成人の子どもを親は一生扶養していかなければならないのか、という問題を生じます。
 大変な努力をして現在の収入を保っている親からすれば、これは納得がいかないかも知れません。
 その場合は、もちろん、成人の子どもの潜在的稼働能力を評価した計算方法で扶養料を算出すべきだと考えます。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)

※ 2015年9月30日の法令と運用に基づく解説です。

有責配偶者からの離婚請求が認められる条件

有責配偶者からの離婚請求は認められないのが原則ですが、一定の条件の下で認められる場合があります

1.有責配偶者からの離婚請求は信義則違反

 裁判離婚は、民法770条1項が定める離婚原因があったときでなければ、認められません。
具体的には、

  1. 配偶者に不貞な行為があったとき
  2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  3. 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

のいずれかに該当する場合に限って、裁判離婚が認められます。
 それでは、上記1~5の事情がある場合であれば、必ず離婚請求が認められるのでしょうか。
 これに対する回答は、「否」です。
 上記1~4に当たる場合であっても、「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは」裁判所は離婚請求を棄却できるとされています(民法770条2項)。
 また、上記1~5に該当する場合であっても、そのような事情を作り出したことに責任のある配偶者(いわゆる有責配偶者)からの離婚請求は、信義則に反して許されないとするのが我が国の判例です(最判昭和29年12月14日民集8巻12号2143頁)。

2.有責配偶者からの離婚請求が認められた事例

 とはいえ、有責配偶者からの離婚請求は、常に認められないというわけではありません。
 例えば、

  1. 別居が相当の長期間に及び
  2. 夫婦間に未成熟子がいない場合には
  3. 相手方配偶者が離婚により経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り

有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないものとすることはできないとした最高裁の大法廷判決があります(最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)。
 その後の最高裁判決も、基本的にはこの定式に従っており、上記の三要件が満たされた場合には、有責配偶者からの離婚請求であっても認められる可能性があると考えられています。

3.別居期間の目安は7~10年

 それでは、「相当の長期間」とは、どのくらいの期間をいうのでしょうか。
 過去の最高裁判決を総合すると、7年~10年くらいの別居期間が、有責配偶者からの離婚請求が認められる限界ではないかといわれていますが、定まった見解があるわけではありません。
立法論としては、5年間の別居で離婚を認めるべきとする提案も有力です。

4.最後は総合判断

 もっとも、最近では、これらよりもはるかに短い別居期間で有責配偶者からの離婚を認めた下級審裁判例も少数ながら登場しています(*1)。
 これらの下級審判決が今後裁判例の主流になるのかはわかりませんが、少なくとも、裁判所は、別居期間から直ちに離婚の成否を判断しているのではなく、別居期間を含めた諸事情を総合的に判断して離婚の成否を判断しているということは確かなようです。
 いずれにしても、婚姻関係の破綻、有責性の有無、信義則違反の有無等は、法的評価をともなう判断となりますので、判断に迷ったときは、専門家に助言を求められることを推奨します。

(*1) これらの裁判例については、馬場陽「不貞行為をした有責配偶者の離婚請求に関する最近の裁判例」家族法研究Vol.11(2015年6月号)1~8頁(愛知県弁護士会研修センター運営委員会 法律研究部家族法チーム発行)で詳しく紹介しています。

※ 2015年7月2日現在施行されている法令に基づく解説です。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)

内縁破棄による慰謝料と財産分与

慰謝料請求はもちろん、家庭裁判所で財産分与の調停もできる。

1.内縁の法的効果

 内縁は、事実婚ともいわれ、婚姻届出をしていない事実上の夫婦関係を意味します。
 日本の民法は、届出によって婚姻の法律的効果が発生することを明文で定めていますから、届出のない事実婚について、法律婚と同様の法的保護を与えることはできません。
 しかし、それでも、内縁には婚姻に準じた生活の実体があり、これらのすべてが保護に値しないとすると、法的正義に反する場合があります。
 そこで、裁判例・学説は、内縁に法律上の夫婦に準じた法的地位を与えたり、これを婚姻の予約であるなどとして、内縁の法的保護を図ってきました。

2.内縁破棄に対する慰謝料

 その1つが、内縁破棄に対する慰謝料です。
 内縁の解消は、婚姻の解消(離婚)と異なり、原因が法定されているわけではありません。
 そのため、当事者は、いつでも内縁を解消することができます。
 そのかわりに、正当な理由のない不誠実な内縁破棄に対しては、それによってこうむった精神的苦痛を損害として慰謝料を請求することが認められています。
 そこで、婚約破棄の場合と同様、どのようなケースであれば不当破棄といえるのかが問題となりますが、ここでも性格の不一致程度では内縁破棄の正当な理由にはあたらないと考えられています。
 裁判例や学説では、離婚原因を定める民放770条1項各号を参考に、不貞行為や長期間の生死不分明、強度の精神病などがあれば、正当な破棄事由があると認める傾向にあるようです。

3.財産分与

 次に、離婚に伴う財産分与の規定(民法768条)を類推適用することで、内縁関係にあった期間に2人で築いた財産を清算することが考えられます。
 共有物分割や不当利得等の財産法の法理によっても解決することはできますが、財産分与と構成することで、家庭裁判所の家事調停や家事審判を利用することができるようになり、訴訟費用や時間の節約が可能になるといわれています(※1)。
 裁判例においても、内縁の解消にあたり、家庭裁判所の手続で財産分与することを認めたものがあります(広島高決昭和38年6月19日家月15巻10号130頁、東京家審昭和31年7月25日家月9巻10号38頁)。

4.内縁の立証

 いずれにしても、内縁を理由とする請求が認められるためには、内縁関係が成立していたことが立証されなければなりません。
 事実上の夫婦としての共同生活の実態を明らかにするものとして、同居の事実や生計の一体性を明らかにする証拠を収集しておきましょう。

※1 二宮周平「婚約・内縁・事実婚」梶村太市=棚村政行(編)『夫婦の法律相談(第2版)』(2008年、有斐閣)所収,参照。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)

2015年6月28日現在施行されている法令に基づく解説です。

離婚後の氏(苗字)と子どもの戸籍

離婚しただけでは子どもの戸籍は変わらない。氏の変更と入籍の手続を。

1.旧姓に戻るのが原則

 婚姻をするとき、夫婦は、協議により夫又は妻のどちらかの氏を称するので(民法750条)、夫婦のどちらかは、婚姻中、相手の氏を称することになります。
 夫婦が離婚した場合、相手の氏を称していた者は、婚姻前の氏に戻り(復氏)、従前の戸籍に戻るのが原則です。

2.婚氏続称の届出は3か月以内に

 しかし、それでは離婚の事実が対外的に知られたり、各種契約において氏名の変更を届出なければならないなど、社会生活上様々な不便が生じます。
 そこで、民法は、離婚の日から3か月以内に届出をすることにより、婚姻中の氏を称することができることとしています(婚氏続称)(民法767条2項)。
 この場合、届出をした者は、氏の異なる従前の戸籍に入ることはできないので、届出をした者について婚姻中の氏で新戸籍が編成されます。

3.子どもの戸籍は従前のまま

 ところで、離婚した夫婦の戸籍に子どもがいる場合、子どもの戸籍は、両親の離婚によって変動するものではありません。
 そのため、例えば夫が戸籍の筆頭者である場合に、妻が未成年の子どもの親権者となって離婚をすると、子どもの戸籍は元夫の戸籍に残り、妻だけが従前戸籍に戻ったり、新戸籍を編成することになります。
 これでは何かと不便なので、このケースで親権者となった妻は、普通、子どもを自らの戸籍に入籍させる手続をとることになります。

4.復氏の場合、入籍届の前に子の氏の変更を

 ところが、離婚によって氏を戻していると、親権者と子どもの氏が異なるので、親権者の戸籍に子どもを入籍させることができません。
 そこで、子どもが15以上である場合は子ども自身が、子どもが15歳未満である場合は親権者が子どもの法定代理人として、家庭裁判所に子の氏の変更の許可の審判を申立てます。
 こうして、子の氏が変更されたら、市区町村役場に入籍届を出して、同一の戸籍に入籍します。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)

2015年6月21日現在施行されている法令に基づく解説です。

婚約破棄と損害賠償責任~慰謝料と結納金・婚礼費用の賠償~

慰謝料の他に、結納金の返還や婚礼費用の賠償を求められる可能性がある。

1.婚約破棄と損害賠償責任

 将来の婚姻の約束を、「婚約」といいます。
 婚約は、将来結婚する約束ですが、婚約がある場合でも、意に反して人に結婚を強制することはできません。
 そのため、婚約の当事者は、財産上の契約の当事者と異なり、約束を破った相手に対し、裁判をして約束を守らせることができないのです。
 しかし、それでは婚約を破棄された当事者の精神的苦痛や財産上の損害を填補することができません。
 そこで、判例は、婚約の履行を強制できないかわりに、婚約破棄による損害賠償を認めてきました。

2.婚約破棄による損害賠償の要件

 婚約破棄による損害賠償が認められるためには、婚約破棄に「正当な理由がない」場合でなければなりません。
 あるいは、婚約が「不当に破棄された」といえる場合に、損害賠償ができると説明されることもあります。
 この2つは、厳密には違う考え方に立脚していて、どちらの立場をとるかによって訴訟での主張立証構造や消滅時効の考え方が変わり得るのですが、婚約破棄の態様として考慮すべき事情には、ほとんど違いがありません。

3.正当な理由が認められる場合

 それでは、裁判例において正当な理由が認められたケースには、どのようなものがあるでしょう。
 代表的なものとして、「新郎として弁えるべき社会常識を相当程度に逸脱した原告の異様な言動」を理由に婚約を解消した事例があります(福岡地小倉支判昭和48年2月26日判例時報713号108頁)。
 反対に、正当な理由がないとされたものとして、「その性格が全く対蹠的であることは明かである」としながらも、それだけでは婚約破棄の正当な理由がないとした事例があります(東京地判昭和32年9月6日判例時報117号12頁)。
 ただの性格の不一致で婚約破棄が正当となることは少ないでしょうが、どの程度になれば正当な理由があるといえるのかについては、裁判例の正確な分析をふまえた総合判断が必要です。

4.賠償範囲

(1)慰謝料

 婚約破棄による損害賠償として、精神的苦痛に対する慰謝料があります。
 公表されている裁判例をみると、50万円、100万円、200万円など、かなりバラつきがあるようです。

(2)結納金

 結納の趣旨にもよりますが、一般に、婚姻が成立しなかった場合には、結納金を返還してもらうことができます。
 ただし、婚約を破棄した側から結納の返還を求めることは、信義に反して許されない場合があるものとされています。

(3)婚礼費用

 結婚式場、新婚旅行等のキャンセル料は、婚約破棄と因果関係のある損害となり得ます。
 婚礼家具や結婚を機に退職した当事者の逸失利益等については、見解が分れるところです。
 購入・退職の経緯、破棄のタイミング、破棄の理由等によって、さらに細かく判断が分かれるところだと思われますので、専門家の意見を参考にすることをおすすめします。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)

2015年6月14日現在施行されている法令に基づく解説です。

離婚のときに養育費の一括払いをすることはできるか

離婚時の養育費の一括払いにはメリットもあるが税法上のリスクなどもある

1.定期給付が原則

 養育費の支払いは、月々何円という形で定められるのが通常です。
 当事者間の合意によって、異なる支払い方法をとることもありますが、裁判になれば、ほとんどの場合、毎月の給付額を定める内容の審判や判決が出ます。

2.一括払いのメリット

 それでは、どうして当事者は、養育費の一括払いを求めるのでしょうか。
 権利者(養育費をもらう方)としては、

  • 義務者(養育費を支払う方)と子どもが疎遠になるにつれて、次第に養育費が支払われなくなるのではないか
  • 義務者が途中で失業してしまったら、定められた養育費が支払われなくなるのではないか

といった不安があり、義務者の経済的状態が安定しているうちに将来の分まで養育費を受け取ってしまいたいと考えます。

 他方、義務者のほうでも、

  • 将来の経済的状態まではわからないので、今お金があるうちに一括で支払を済ませてしまいたい

といった考えがあって、一括払いを希望します。
 中には、権利者・義務者に共通理由として、

  • お互い新しい生活があるので、離婚した当事者と関わりをもちたくない

という場合もあるかも知れません。
 そこで、当事者間の合意によって、養育費の一括前払いを取り決める例が見られますが、これには、リスクがないわけではありません。

3.一括払いのリスク

(1)物価の変動

 1つ目のリスクは、物価の変動等の経済的事情の変化です。通常、養育費の支払いは、子どもが成人するまで、長いときは20年ちかく続きます。
 養育費の額は、合意の時点での物価をもとに決められますので、子どもが成人するまでの間に物価が高騰したりすると、先に受け取った養育費の金額が物価に比して少なすぎるという状態が生じ得ます。
 また、支払う方としても、互いの経済的環境が変わって、養育費の額を減額しようにも、すでに合意して支払ってしまっているので、減額が難しくなるという問題もあります。
 一括払いを合意するときは、このようなリスクを互いに折り込んで合意をしなければなりません。

(2)中間利息控除

 次に、中間利息控除の問題があります。
 これは、本来であれば将来にわたって分割して受け取るべき金員を一括で受け取ることで、権利者側に、本来の履行期までの運用利益が発生しているのではないかという問題です。
 経済的実態からみれば高額ですが、2015年6月現在の法定利率は年5パーセントですので、将来受け取るべき金員について、年5パーセント分の利息を控除して支払うべきではないのか、ということが一応検討されなければなりません。

(3)贈与税

 最後に、贈与税です。
 将来の養育費について、権利者には、具体的な給付を受ける権利が発生していません。
 その状態で、お金を受け取ってしまえば、これは贈与を受けたものと考えられ、贈与税が発生すると考えられています。

4.リスクを十分検討してから判断を

 以上のとおり、いろいろなリスクはありますが、当事者間の合意によって養育費の一括前払いをすること自体は、違法ではありません。
 リスクについて互いに納得した上で、真摯な合意が成立するのであれば、互いにメリットもあり、十分検討に値する方法だと考えます。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会)

2015年6月7日現在施行されている法令に基づく解説です。

離婚に伴う配偶者への財産分与には税金がかかる

財産分与をする人、財産分与を受ける人、それぞれに課税リスクがある。

1.はじめに

 離婚に伴う財産分与の課税関係は、どうなっているのでしょうか。
 財産分与の内容は、当事者の合意や裁判によって定められますが、その際、課税関係について検討が不十分のままだと、離婚後、思わぬ出費をすることになります。

2.財産分与する人の税金―譲渡所得税―

 財産分与をする人の課税関係は、財産分与が金銭で行われるか、金銭以外の資産で行われるかに分けて考える必要があります。

(1)金銭で財産分与する場合

 財産分与が金銭で支払われる場合、財産を分与する人に、税金は課されません。

(2)金銭以外の資産(株式や不動産など)で財産分与する場合

 これに対し、不動産、株式等、金銭以外の資産によって財産分与が行われた場合、財産分与をした人には、譲渡所得が発生します。
 無償で分与しているのに、譲渡所得が発生するというのは釈然としないかも知れませんが、資産の無償譲渡は、時価により譲渡したものとみなされ(所得税法59条1項1号)、譲渡所得税が課税されるのです。
 とはいえ、財産分与は、夫婦共有財産の清算に過ぎません。
 この点をつきつめていくと、財産分与に譲渡所得税が課税されるというのはおかしい、ということになり、実際にそのような学説も主張されています。
 しかし、最高裁は、一貫して、金銭以外の資産で財産分与をした人に譲渡所得税が課税されるとしています。

(3)特例の活用を

 原則は以上のとおりですが、財産を分与する人が住んでいた不動産を財産分与する場合、譲渡所得の特別控除を利用することが考えられます。
 また、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、離婚前に居住用不動産を贈与することで、これを贈与として扱い、贈与税の配偶者控除の特例を受けるというスキームも考えられます。
 弁護士、税理士、配偶者ともよく相談して、分与の方法を検討しましょう。

3.財産分与を受ける人の税金―贈与税―

 財産分与を受けた人は、無償で財産を取得したわけですから、贈与税が課されるかどうかが問題となりますが、原則として、財産分与を受けた人には、贈与税は課税されません。
 ただし、夫婦の財産状況からみて過大な財産分与を受けた場合には、その過大な部分について、贈与税が課されます(相続税法基本通達9-8但書)

4.課税関係についての錯誤

 課税関係について錯誤があったことを理由として財産分与の無効を主張できるかどうかという問題について、最高裁はその可能性を認めています(最判平成元年9月14日)。
 しかし、個々のケースについて常に錯誤無効の主張が認められるとは限りませんので、離婚に当たっては、分与する人も、分与を受ける人も、課税関係について十分検討した上で財産分与をすることをおすすめします。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会)

2015年6月1日現在施行されている法令に基づく解説です。