Aさんは、一人暮らしの高齢者です。遠方に親戚(兄、姉)がいるようですが、20年以上連絡をとっていません。 Aさんは、自分が亡くなったら、親しい友人であるBさんに、死亡届、アパートの明け渡し、永代供養等の死後事務をお願いし、Aさんの財産も全部もらってほしいと考えています。 このような遺言をすることは可能でしょうか。また、Aさんにアドバイスがあればお願いします。 |
(2)遺言で友人に全財産をあげることはできるか
遺言の内容は、原則として自由に定めることができますから、Aさんも、全部の財産をBさんに遺贈するという遺言を作ることができます。
ただし、民法は、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分を定めています(民法1028条)。したがって、Aさんに、配偶者や子といった相続人がいる場合には、Bさんが全部の財産を取得するのは難しいかも知れません。
しかし、今回、Aさんの親族は、兄、姉とされています。前記のとおり、法律で遺留分が定められているのは兄弟姉妹以外の相続人ですので、兄、姉には遺留分はありません。したがって、Aさんに配偶者や子、孫等の直系血族がいなければ、Aさんは、遺言によってBさんに全財産を承継させることが可能です。
(3)親戚に連絡をとらないことができるか
それでは、この方法による場合、Aさんの親戚に連絡をとらずに全部の手続きを進めてしまうことができるかというと、これはなかなか難しそうです。Aさんの遺言を執行するためには、相続人全員の同意か又は遺言執行者の選任が必要です。しかし、遺言執行者は、相続財産の目録を作成し、相続人に交付する義務がありますので(民法1011条)、Aさんの法定相続人に死亡の事実を知らせずにこの遺言を執行することはできません。
(4)アドバイス
そこで、例えば、Aさんの財産をBさんに死因贈与(民法554条)し、Bさんとの間で死後事務委任契約を締結するとか、負担付贈与契約(民法553条)を利用することが考えられます。内容としては、Aさんの意思決定をなるだけ尊重できて、かつ、Bさんが負担なく受け入れることができる法的構成を模索しなければなりませんし、手続的にも、法定相続人とトラブルになりにくい手段を選択しなければなりません。まさに法律家と福祉関係者の協同が必要な場面です。知恵を出し合って、より良いプランを立案するためにも、まずは関係者全員で、AさんとBさんをヒアリングすることをおすすめします。
なお、仮に遺言をする場合でも、遺言は、民法に定める方式に従ったものでなければ効力がありません(民法960条)。せっかくの遺言を無効にしてしまわないように、必ず法律専門家のチェックを受けましょう。
馬 場 陽
(愛知県弁護士会所属)
2014.6.18作成