高齢者の法律問題

 Question3
 Bさんは、10年間にわたり、身よりのない友人のAさんの介護をしてきました。最近、Aさんが死亡して、遠方にAさんの兄弟がいることがわかりました。Bさんは、介護にかかった費用をAさんの兄弟に請求できますか。

 Answer 

(1)介護サービスの法的性質と介護報酬

 介護サービスを提供する契約は、「準委任契約」(民法656条)といって、特約がなければ、報酬を請求することができません(民法648条)。そのため、介護サービス事業者が介護サービスをはじめるときは、あらかじめ、報酬の額や支払方法について契約をしておくのが通常です。Bさんの場合、どのような経緯で介護をすることになったのかわかりませんが、介護サービスをはじめたときに、Aさんから報酬をもらう約束をしたのでなければ、そもそも報酬を請求することは難しいと思われます。
 あまり例はありませんが、本人の委託を受けず、法律上の義務もないのに、成り行きで介護をはじめてしまった場合、準委任契約は成立せず、事務管理(民法697条)という状態になりますが、これも報酬を請求することはできません。

(2)消耗品等の実費

これに対し、Bさんが、Aさんのために、消耗品の代金を支払ったり、病院に連れていく交通費を負担しているときは、Bさんは、介護にかかった実費をAさんに請求することができます(民法650条1項)。事務管理の場合でも、本人のために有益な費用を支出したときは、費用の償還を請求することができるとされています(民法702条)。

(3)兄弟に請求する法的根拠

次に、今回は、Aさんの死亡後、これらの費用をAさんの兄弟に請求したい、とのことですので、その法律構成を考えてみましょう。
 もし、Aさんに、子や孫といった直系血族がいなければ、兄弟がAさんの法定相続人となりますから(民法889条1項2号)、本来Aさんが払うべきであった実費について、Aさんを相続した兄弟に支払を請求することができます。ただし、この場合、兄弟が相続放棄の手続(民法938条)をしてしまうと、もはや実費を請求することはできません(民法939条)。
 その場合、扶養料相当額の不当利得(民法703条)という考え方ができるかも知れません。民法上、兄弟姉妹は扶養の義務がありますので(民法877条)、扶養義務のないBさんがAさんを扶養したことによって、扶養義務者であった兄弟たちは不当に支出を免れ、その分を利得しているというわけです。
 もっとも、兄弟についてAさんを扶養する義務があったというためには、Aさんにお金がなくて扶養が必要な状態であり、かつ、兄弟にある程度の収入があったことが必要です。したがって、Aさんの兄弟に十分な収入がない場合などは、扶養料相当額の返還を求めるのは難しいかも知れません。

(4)アドバイス

 介護報酬をもらう約束をしていたならば、その証書等が必要です。そのような約束がない場合は、せめて実費の領収書は保管しておく必要があります。要介護状態にある高齢者の場合、しばしば判断能力が十分でないことがありますから、証書があるからといって常に契約は有効とは限らず、むしろ報酬合意が否定されるケースも多いことには注意が必要です。

回答者 : 馬 場  陽  

(愛知県弁護士会所属)

2014.6.18作成

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