私の法定相続人は、長男と二男の2人だけです。同居の長男に自宅を譲りたいのですが、他に財産は何もありません。 私が死亡して、二男が遺留分減殺請求権を行使した場合、自宅を手放すことになるのでしょうか。 |
(1)問題状況
法定相続人が2人以上いるが、残してあげられる財産が自宅しかない、という場合、何とか自宅を相続人の1人に単独で承継させる方法はないものでしょうか。
(2)遺言と生前贈与
こうした場合、まず考えられるのが、遺言と生前贈与です。相続税・贈与税や登録免許税のことを考えると、一般的には、遺言のほうが税金は安くなりますが、相続時精算課税の制度を利用すれば、生前贈与でも、かなりの範囲で贈与税の発生を抑えることができるでしょう。
(3)遺留分の問題
問題は、その場合でも、民法上、一定の法定相続人には遺留分をいう権利が認められていることです。設例のケースでは、二男が遺産の4分の1に対して遺留分をもっています。将来、二男が長男に対して遺留分減殺請求権を行使したら、長男は、次男に対し、自宅の4分の1相当の金銭を支払うことができない限り、自宅を二男と共有名義にするしかありません。さらに二男が共有物分割を請求したら、自宅は売却を免れないでしょう。
(4)生命保険の活用
そこで、1つの方法として、生命保険を活用することが考えられます。
ここで注意していただきたいのは、受取人を、二男ではなく長男とすることです。よくある失敗例として、せめて生命保険金だけでも、という親心から、二男を生命保険金の受取人とすることがあります。しかし、生命保険金は相続財産ではありませんから、二男は、生命保険金を受け取りながら、さらに長男に対して遺留分減殺請求権を行使することができます。その場合、長男は、二男に対し、遺産の4分の1相当の金員を支払わなくてはなりません。長男にそれだけの資金がなければ、やはり自宅は兄弟の共有となり、二男が共有物分割を求めたならば、自宅は売却を免れないでしょう。
これに対し、長男を生命保険金の受取人としておけば、二男が長男に対して遺留分減殺請求権を行使したときでも、長男は、次男に生命保険金で遺留分相当の金員を支払うことができます。その結果、自宅は完全に長男のものとなり、売却を免れることができるのです。
弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)
2014.9.27作成