1.婚姻費用は生活のための費用
夫婦の生活費、子どもの養育費を含め、夫婦が「その共同生活において、財産 収入 社会的地位等に相応じた通常の生活を維持するに必要な生計費」を、婚姻費用といいます(大阪高決昭和33年6月19日)。
婚姻費用の分担額は、それぞれの収入や監護している子どもの人数、生活環境等により、協議、調停、審判によって定められます。
2.過去の婚姻費用も
そのため、婚姻費用の分担額に争いがあるようなケースでは、交渉、調停、審判を経て婚姻費用が支払われるまで、数か月から1年くらいかかるのが通常です。
このように、婚姻費用の分担が必要になってから実際に支払が始まるまでしばらくの期間があることから、実務では、婚姻費用はいつまでさかのぼって請求できるのか(いつまでさかのぼって支払わなければならないのか)が論点となりました。
この点についての考え方は、大きく次の3つに分類できます。
- (ア)婚姻費用の分担を必要とした事情が認められる当初までさかのぼって分担関係を定め得るとするもの(東京高決昭和42年9月12日)
- (イ)扶養義務者において支払の必要性を認識したとき(認識できたとき)にさかのぼって支払を命じるもの(大阪高決昭和58年5月26日)
- (ウ)公平の観点から、扶養権利者が扶養義務者に婚姻費用の分担を請求した時点から支払を命じるもの(東京高決昭和60年12月26日)
現在は、(ウ)の請求時説に立つ審判例が多いといわれています(梶村太市「離婚調停ガイドブック(第4版)」日本加除出版、243頁参照)。
3.請求時より前の未払婚姻費用は財産分与で清算される
それでは、(ウ)の説に立った場合、請求時より前の婚姻費用の清算はなされないのでしょうか。
そうではありません。
こちらも説が分かれていますが、多くの場合、未払いの婚姻費用は、財産分与の内容を決定するときに考慮できると考えられています。
4.財産分与で清算できないこともある
とはいえ、離婚に伴う財産分与の時点(あるいは財産分与の基準時点)において、夫婦共通財産がほとんどなければ、事実上、財産分与での清算は期待できません。
また、夫婦共通財産の範囲や評価に争いがあって紛争の長期化が予想される場合など、早期解決のためにどちらかが譲歩しなければならないこともあるでしょう。そのような場合にも、財産分与の段階で未払婚姻費用を適切に清算することは困難となるものと思われます。
したがって、婚姻費用の分担をいつの時点で請求していたかという点は、最終的な経済的給付の額を予想する上で、実務上も重要な判断材料の1つとなっています。
弁護士 馬場陽
(愛知県弁護士会所属)
※ 2016年2月13日現在の情報に基づく解説です。