財産分与をする人、財産分与を受ける人、それぞれに課税リスクがある。
1.はじめに
離婚に伴う財産分与の課税関係は、どうなっているのでしょうか。
財産分与の内容は、当事者の合意や裁判によって定められますが、その際、課税関係について検討が不十分のままだと、離婚後、思わぬ出費をすることになります。
2.財産分与する人の税金―譲渡所得税―
財産分与をする人の課税関係は、財産分与が金銭で行われるか、金銭以外の資産で行われるかに分けて考える必要があります。
(1)金銭で財産分与する場合
財産分与が金銭で支払われる場合、財産を分与する人に、税金は課されません。
(2)金銭以外の資産(株式や不動産など)で財産分与する場合
これに対し、不動産、株式等、金銭以外の資産によって財産分与が行われた場合、財産分与をした人には、譲渡所得が発生します。
無償で分与しているのに、譲渡所得が発生するというのは釈然としないかも知れませんが、資産の無償譲渡は、時価により譲渡したものとみなされ(所得税法59条1項1号)、譲渡所得税が課税されるのです。
とはいえ、財産分与は、夫婦共有財産の清算に過ぎません。
この点をつきつめていくと、財産分与に譲渡所得税が課税されるというのはおかしい、ということになり、実際にそのような学説も主張されています。
しかし、最高裁は、一貫して、金銭以外の資産で財産分与をした人に譲渡所得税が課税されるとしています。
(3)特例の活用を
原則は以上のとおりですが、財産を分与する人が住んでいた不動産を財産分与する場合、譲渡所得の特別控除を利用することが考えられます。
また、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、離婚前に居住用不動産を贈与することで、これを贈与として扱い、贈与税の配偶者控除の特例を受けるというスキームも考えられます。
弁護士、税理士、配偶者ともよく相談して、分与の方法を検討しましょう。
3.財産分与を受ける人の税金―贈与税―
財産分与を受けた人は、無償で財産を取得したわけですから、贈与税が課されるかどうかが問題となりますが、原則として、財産分与を受けた人には、贈与税は課税されません。
ただし、夫婦の財産状況からみて過大な財産分与を受けた場合には、その過大な部分について、贈与税が課されます(相続税法基本通達9-8但書)
4.課税関係についての錯誤
課税関係について錯誤があったことを理由として財産分与の無効を主張できるかどうかという問題について、最高裁はその可能性を認めています(最判平成元年9月14日)。
しかし、個々のケースについて常に錯誤無効の主張が認められるとは限りませんので、離婚に当たっては、分与する人も、分与を受ける人も、課税関係について十分検討した上で財産分与をすることをおすすめします。
弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会)
2015年6月1日現在施行されている法令に基づく解説です。