アフターサービスの変更について記載されていなかったことから、特定商取引法42条2項の書面の交付があったとはいえないとしてエステティックサービス契約のクーリング・オフが認められた事例―大阪地裁令和7年3月26日判決・判例タイムズ1545号231頁

弁護士 馬場 陽[*]


(事案の概要)

 対象消費者は、エステティック事業者であるYとの間で光脱毛の施術を内容とするエステティックサービス契約(以下「本件エステ契約」といいます)を締結し、Yに代金を支払っていました。本件エステ契約における光脱毛は、医療行為ではなく、医療脱毛に比して一施術当たりの効果が薄弱であるとされています。

Yと対象消費者の間の約定では、対象消費者は、Yから次のサービスを受けることができる、とされていました。

① 施術の箇所、回数、期間が定められ、1か所当たり1回の施術を単価として代金が定められた有償の脱毛コース(以下「本件有償コース」といいます)

② 有償コース終了後のアフターサービス(以下「本件アフターサービス」といいます)

本件エステ契約の契約書によれば、①は有料(数十万円)、②は無料で、対象消費者は、最終利用日から1年(妊娠等の事情がある場合は2年)を経過しない限り、無制限で②のアフターサービスを受けられることが記載されていました。

Yは、対象消費者に、契約書、契約書約款、事前内容説明書兼同意書の各書面を交付していましたが、これらの書面には、②のアフターサービスの具体的な内容やその変更可能性についての記載はありませんでした。

 ②のアフターサービスは、当初、Yの従業員が①の有償コースと同様に光脱毛の施術を行うというものでしたが、Yは、令和3年10月15日、②のアフターサービスの内容を、Yの店舗において光脱毛の機器を貸与し、利用者自らが施術を行うという内容に変更し、対象消費者に通知しました。

 対象消費者は、Yに対し、令和5年8月29日、特定商取引法48条1項に基づき本件エステ契約を解除するとの意思表示をし(クーリング・オフ)、同年9月27日、不実告知を理由として特定商取引法49条の2第1項に基づき本件エステ契約の申込みの意思表示を取り消す旨の意思表示をしました。

 内閣総理大臣から認定を受けた特定適格消費者団体であるXは、Yが対象消費者に対して不当利得返還義務を負うことの確認を求める訴訟を提起しました。

 本件の争点はいくつかありましたが、Yは、本件エステ契約の解除(クーリング・オフ)に関し、本件アフターサービスは契約終了後のサービスであって本件エステ契約の内容を構成しないことを主張しました。


(裁判所の判断)

 裁判所は、以下のとおり述べて、Yの不当利得返還義務を認めました。

 「……本件対象消費者は、本件有償コースの施術期間が終了した後も、本件アフターサービスによって、本件有償コースの施術期間中と同一の施術を継続的に受け続けることができるから、本件アフターサービスは、それ自体社会通念上独立した経済的価値を有する役務であるといえる。

 ……本件エステ契約により施術される光脱毛は……医療脱毛に比して一施術当たりの効果が薄弱であるから、脱毛の効果を得るには長期間継続して施術を受ける必要がある。そうすると、本件対象消費者は、被告従業員による施術を長期間継続して受けられることを前提に、本件エステ契約の締結を検討するといえる。加えて、脱毛施術を自分で行うか他者が行うかは、施術可能な身体の範囲にも影響する問題であって、本件対象消費者にとって重大な関心事である。このような事情からすると、本件対象消費者は、期間及び回数無制限で、被告の従業員による施術が受けられるという本件アフターサービスの経済的価値を考慮した上で、本件エステ契約を締結したと判断される。

 ……本件エステ契約の契約書上、本件アフターサービスは無料とされている。しかし、本件有償コースの代金の多くは数十万円と高額であること、被告が本件アフターサービスを提供するに当たっては、本件有償コースと同様の経費が発生すると考えられることからすれば、本件エステ契約の代金は本件有償コースに対する対価のみならず、本件アフターサービスに対する対価をも含むと解されるから、本件アフターサービスは、本件有償コースと一体となって実質的に有償で継続的に提供される役務提供であるといえる。

 したがって、本件エステ契約は、本件有償コース及び本件アフターサービスによって構成されていると認められる」。

 「被告は、特定継続的役務提供契約である本件エステ契約を締結したときは、役務提供の形態又は方法について本件エステ契約の内容を明らかにする書面を本件対象消費者に交付しなければならない(特商法42条2項1号、同施行規則93条1項2号(令和5年2月1日号外内閣府・経済産業省令第2号による改正前は33条1項2号))」。前記のとおり、「本件エステ契約は、本件有償コース及び本件アフターサービスによって構成されているから、被告は、特商法42条2項に基づき本件対象消費者に交付する書面において、本件アフターサービスの提供の形態又は方法を明らかにする必要がある。

 ……被告は、本件エステ契約において、本件アフターサービスの提供の形態又は方法を変更する可能性がある場合は、その旨を同項に基づく書面に記載しなければならない」。

 「本件エステ契約は、本件対象消費者が一定の金額を支払えば、被告の従業員による脱毛施術を期間無制限で受け続けることができるという内容であり、本件アフターサービスの利用者が増加すれば、本件アフターサービスの提供が困難となり、ひいては本件アフターサービスの提供の形態又は方法を変更せざるを得なくなる可能性が当初からあったといえる。そうであるにもかかわらず……被告が本件エステ契約を締結したときに本件対象消費者へ交付した書面には、本件アフターサービスの形態又は方法が変更される可能性について記載がない。そうすると、本件対象消費者は、本件アフターサービスの形態又は方法の変更があり得ることを認識し得なかったというべきであり、適正な情報に基づいた自由な意思決定が確保されていたとはいえない。

 したがって、被告が、本件エステ契約締結時に、特商法42条2項に基づき本件対象消費者に交付した書面には、その記載に不備があったと認められる」。

 前記のとおり、Yが「本件エステ契約を締結したときに交付した書面には、対象消費者にとって重要な事項について記載に不備があったといえるから、本件対象消費者が特商法42条2項の書面を受領したとはいえない。

 したがって、本件エステ契約について、解除(クーリング・オフ)の期間の起算日が到来したとはいえない」。

「被告が本件アフターサービスの内容を変更した令和3年10月15日の時点で本件アフターサービスが終了しておらず、本件エステ契約が続いていた者は、特商法48条1項に基づき、本件アフターサービスを解除(クーリング・オフ)することができる」。


(解説)

 本件は、特定適格消費者団体であるXが、対象消費者と事業者Yの間で締結された本件エステ契約の解除(クーリング・オフ)を理由としてYの対象消費者に対する不当利得返還義務の確認を求めた訴訟です。Xは、不実告知を理由として本件エステ契約の申込みの取消しも主張していましたが、クーリング・オフが認められたことから、取消しの成否については判断されていません。

 本件エステ契約は、消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律2条3号に定める消費者契約であり、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介とともに特定商取引法41条1項に定める特定継続的役務提供契約に該当します(1号)。

 役務提供事業者は、特定継続的役務提供契約を締結しようとするときは、(契約締結前に)特定商取引法42条1項に定める事項を記載した書面を交付しなければならず、契約締結後、特定商取引法42条2項に定める事項を記載した書面を交付しなければならないこととされています。

 そして、特定商取引法48条1項は、「特定継続的役務提供受領者等は、第42条第2項又は第3項の書面を受領した日から起算して8日を経過したとき(……)を除き、書面又は電磁的記録によりその特定継続的役務提供等契約の解除を行うことができる」と規定し、契約書面の受領日をクーリング・オフ期間の起算日としています。

 そのため、「特定商取引法42条2項に基づく書面の交付がいつあったか」ということが、特定商取引法48条1項によるクーリング・オフの成否を左右することになります。

 本件で、Yは、契約締結時に契約書、契約書約款、事前内容説明書兼同意書の各書面を交付していましたが、裁判所は、これらを特定商取引法42条2項に基づく書面の交付に当たらないと判断しています。

 特定商取引法42条2項に基づく書面の交付であるというためには、「役務の内容であつて主務省令で定める事項」(1号)が記載されていなければならず、「主務省令で定める事項」として、特定商取引法施行規則96条1項は、「①役務の種類、②役務提供の形態又は方法、③役務を提供する時間数、回数その他の数量の総計、④施術を行う者、講師その他の役務を直接提供する者の資格、能力等に関して特約があるときは、その内容」を列挙しています。

 本判決は、本件アフターサービスが本件エステ契約の内容に含まれるという理解を前提に、「本件アフターサービスの提供の形態又は方法を変更する可能性がある場合は、その旨を同項に基づく書面に記載しなければならない」と述べています。そして、Yが交付した書面には、「本件アフターサービスの形態又は方法が変更される可能性について記載がない」ことから、本件において、特定商取引法42条2項に基づく書面の交付があったとはいえないとし、令和5年8月29日の時点でクーリング・オフ期間が満了していないと判断しました。そして、対象消費者によるクーリング・オフが是認された結果、Yは、対象消費者から受け取った対価の全額を不当利得として返還する義務を負うと判断されました。

 本判決は、①本件エステ契約に占める本件アフターサービスの重要性を論じており、②「本件アフターサービスの提供の形態又は方法を変更せざるを得なくなる可能性が当初からあったといえる」点を指摘していることなどから、特定の事実関係を前提とした事例判断であるということができます。しかし、その判示は、基本的に行政庁の解釈と同様の考え方を示したものであり[†]、実務上も参考になるものと思われます


  • 2026年8月22日の法令に基づく解説です。

[*] 大津町法律事務所(愛知県弁護士会所属)

[†] 消費者庁ウェブサイト『特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)』(令和7年6月1日時点版)参照。「(いわゆるアフターサービス)等社会通念上も無償で提供されることが通常である役務はともかく、社会通念上独立して経済的価値を有する役務であって役務の提供を受ける者も当該役務の提供について経済的価値を認識して(すなわち有償であると認識して)いる場合においては、実質的には当該取引全体として有償の役務提供がなされているものと考えられる」(291頁)。「役務提供の形態等の関係で、どの程度の回数の役務を提供するのか等について自らの責任において約束ができない場合には、例えば、「役務の提供回数については約束できない。」等を明確に記載する必要がある。」(299~300頁)等。

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2026/08/22 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : 弁護士馬場陽