1.養育費は子どもを監護する費用」
未成年の子どもの父母である夫婦が離婚する場合、子どもの親権は、父または母のいずれかに定められます(民法819条1項、2項)。
そのため、子どもは、両親が離婚した後は、どちらかの親のもとで監護をされます。
この場合に、子を監護しない親、あるいは、子を監護できないことになった親は、子を監護する親に対して「子の監護に関する費用を分担することとなります(民法766条1項、2項参照)。
この子の監護に関する費用を、実務上、養育費と呼んでいます。
2.養育費の額は、合意によって定めることができる
この養育費の金額は、父母の合意によって定めることができます。
例えば、協議離婚をする場合に、父母の間で養育費の金額について合意ができるならば、合意された金額は著しく不当なものでない限り有効であり、義務者(養育費を支払う当事者)が支払うべき養育費の額は、その合意された金額となります。
この場合には、特別の手続は必要ではありません。父母の協議によって養育費の金額を定めれば、それで合意は成立します。
もっとも、養育費に関する父母の協議の内容を、どのようにして証拠に残しておくかという点は問題です。
将来の紛争を予防するためにも、離婚協議書を作成しておくことをおすすめします。権利者(養育費をもらう当事者)の立場であれば、協議の内容を公正証書にしておくことが手堅いといえます。
当事者間でうまく合意ができない場合でも、家庭裁判所の調停という手続の中で話し合いをすることができます。
家庭裁判所では、裁判所が選任した調停委員が、話し合いの手助けをしてくれます。
調停では、当事者同士の合意による解決を目指しますので、ここでも、著しく不当なものでない限り、当事者間の合意によって定められた金額が、義務者が支払うべき養育費の金額となります。
3.裁判で決める場合の計算方法
どうしても当事者間で合意が成立しないときは、家庭裁判所の審判という手続を利用します。審判では、家庭裁判所の審判官/裁判官が、当事者双方から提出された資料をもとに、適正な金額を決定します。
すでに離婚の裁判がはじまっていて、離婚の裁判の中で養育費の金額が争われているような場合にも、裁判官が養育費の額を決定します。
この場合の計算方法については、いくつかの考え方があり得ますが、現在の家庭裁判所実務では、東京・大阪の裁判官による共同研究の成果として公表された次の計算式(注1)によることがほとんどであると思われます。
(計算式)
(1)基礎収入=総収入×0.34~0.42(給与所得者の場合)(高額所得者の方の割合が小さい)
基礎収入=総収入×0.47~0.52(自営業者の場合)(高額所得者の方の割合が小さい)
(2)子の生活費={義務者の基礎収入×55or90(子の指数)}÷{100+55or90(義務者の指数+子の指数)}(注2)
(3)義務者が分担すべき養育費の額=(子の生活費×義務者の基礎収入)÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
(注1)「簡易迅速な養育費の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」判タ1111号285頁参照。
(注2) 「子の指数」は、生活保護法第8条に基づき厚生労働省によって告示されている生活保護基準のうち、「生活扶助基準」を利用して積算される最低生活費に教育費を加算して算出した金額です。親を100とした場合、年齢0歳から14歳までの子については55、年齢15歳から19歳までまでの子については90とされています。
4.算定表の利用が簡便
以上の計算式は複雑ですので、簡便な調べ方として、上記の計算式をもとに作成された養育費・婚姻費用算定表を参照することもあります。
この算定表は、裁判所のウェブサイトで公開されています(リンクはこちら)。
5.計算式でカバーできない事情
以上、実務上広く利用されている計算方法を紹介してきましたが、このような算定方法にまったく問題がないわけではありません。
たしかに、この種の計算式を導入することは、全国で類似の事案を同じように解決することを可能にし、公平性と予測可能性を担保できるという大きなメリットがあります。
一方で、ひとたび計算式が実務に定着すると、計算式そのものに対する合理的批判や時代の変化、個別の事情といったものは、事案の解決に反映されにくくなります。
どのような事情を反映し、どのような事情を捨象すべきかという点について、さらにコンセンサスを形成していく努力が必要です。
※ 2015年3月1日現在の情報に基づく解説です。
弁護士 馬場陽
(愛知県弁護士会所属)