弁護士 馬場 陽[*]
(事案の概要)
Xは、札幌市に本店を置き、介護保険法に基づく居宅介護事業、通所介護事業、フランチャイズ事業等を営む法人である。
Y1は、千葉県松戸市において障害グループホーム事業の実施を計画していた者であり、令和3年3月31日、Xをフランチャイザーとするフランチャイズ契約を締結した(以下「本件契約」という)。本件契約においてY1がXに支払う対価は、7か月目以降、月額16万5000円であった。
なお、本件契約には、以下の合意が含まれていた。
① X又はY1は、本件契約を継続し難い相当の事由が生じたときは、事前の催告を要せず、相手方に解除の告知をすることにより、本件契約の全部又は一部を直ちに終了させることができる。
② Y1は、本件契約期間中に本件契約を中途で解約することを望む場合、Y1が解約を希望する日の3か月前までに書面でⅩに通知し、かつ、違約金360万円を支払うことで解約できる。
Y2は、Y1のXに対する本件契約上の債務を極度額450万円の範囲で連帯保証した。
令和3年8月1日、千葉県知事は、Y1が営む千葉県松戸市の事務所を障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「障害者総合支援法」という)に基づく指定事業者として指定した。
Xは、札幌市から、障害者総合支援法50条1項に基づき、㋐令和4年1月1日から同年6月30日まで6か月間の指定障害福祉サービス事業者の指定の一部効力停止処分(報酬支払額の3割減額)を受けるとともに、㋑同法8条1項、2項に基づき、不正に受領した訓練等給付費及びこれに対して100分の40を乗じて得た加算額の合計2931万9817円について、不正利得の徴収処分を受けた(以下「本件処分」という)。本件処分の理由は、Xが札幌市で営む障害者グループホームに関して行った下記(1)及び(2)の行為であった。
(1)平成30年5月以降、入居者39名に対し、個別支援契約の作成・見直しを適正に行わないままサービスを提供していたにもかかわらず、個別支援計画未作成減算をしないで訓練等給付費を不正に請求し、本来受領できない訓練等給付費を受領していた(障害者総合支援法50条1項5号、訓練費等給付の請求に関する不正)。
(2)実地指導が行われることを知り、当時作成していなかった利用者7名分の個別支援契約を日付を遡って作成し、あたかも適切に作成していたかのように装った。また、実地指導中に2度にわたり、個別支援計画を適切に作成していたという虚偽の報告をした(障害者総合支援法50条1項10号、障害福祉サービスに関する著しく不当な行為)。
Xは、令和3年12月20日、本件処分を公表し、Y1、Y2は、令和4年7月頃、本件処分を知った。令和4年8月、Xは、Y1に本件処分の事実及び経緯を説明した。
Y1は、令和5年3月8日、本件処分が前記①の解除事由に該当するとして本件契約の解除を通知した(同月10日到達)。
Xは、上記通知を前記②の中途解約の申込として扱い、令和5年6月10日に本件契約が終了したものとして、Y1に対し違約金および令和5年3月から6月分の対価の支払いを求め、Y2に対し保証債務の履行を請求した。
(判決の要旨)
「本件契約は、双方の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であることに鑑みると、上記契約を継続し難い相当の事由とは、当事者の一方に、その義務に違反し信頼関係を破壊し、契約関係の継続を著しく困難ならしめるような行為があったことを指すと解される。そして、この場合の義務とは、必ずしも本件契約(特約含む。)の要素をなす義務の不履行のみに限らず、本件契約に基づいて信義則上当事者に要求される義務に反する行為も含まれるものと解される(最高裁昭和47年11月16日判決・民集26巻9号1603頁参照)」。
(Y1の営む)「本件事務所においては、……Xグループであることを明示する名称は施設につけておらず、Xグループに所属していることが入居者・入居希望者含めて第三者に対して明らかとはなっていない。なお、本件事務所には、緊急時の対応として本部連絡先として「X」と表示していたこともうかがわれるが、顧客に聞かれたら回答するという立ち位置にとどまっており、第三者に対してXグループに所属していることが明らかになっていたとはいえない」。
「原告の本社は札幌市に所在し、本件処分を受けた事業所も札幌市で、本件処分の告知が行われていたのは札幌市のホームページ及び原告のホームページであり、Y1側でホームページ等に掲載したり、利用者や関係者に積極的に報告はしていなかったことや本件事務所は千葉県松戸市に所在すること、本件処分の内容は、サービス内容に問題があったのではなく、あくまで、個別支援計画を適切な時期に作成していなかったことによる給付金の不正受給であることを踏まえると、本件処分によって本件事務所への頼度が低下し、入居希望者を減少させるといった影響が直ちにあるものとはいえない」。
「したがって、原告が本件処分を受けた一事だけをもって、信頼関係の破壊があったとは認められない……」。
「一方、原告が本件処分を受けたことによって、入居者の減少(退去含む。)といった直接的影響があったといえるのであれば、信頼関係が破壊されると認めうるものといえる」が、「……本件処分によって、本件事務所の入居者への影響があったとはいえないことから、原告が本件処分を受けたことによって信頼関係の破壊があったとは認められない」。
Y1の本件契約の解除の意思表示は、「中途解約の申込みとみる限りにおいて」、Y1に「中途解約の違約金360万円及び中途解約日までの会費66万円並びにこれらの各支払期限の翌日から約定遅延損害金の支払義務が生じる」。
(解説)
本件では、フランチャイザーであるXが行政庁から処分を受けたことが、X・Y1間のフランチャイズ契約に定める解除事由に該当するか否かが争われました。
XとY1の間では、「本件契約を継続し難い相当の事由が生じたとき」はフランチャイズ契約を即時解除できることになっており、Y1は、Xにおいて行政処分を受けたことがこれに当たると主張しました。
本判決は、(1)Y1の事業所等においてXの名称が使用されておらず、Y1の事業所がXのグループに所属していることが第三者に対して明らかになっていなかったこと、(2)Xが札幌市の事業者であり、Y1が千葉県松戸市の事業者であること、(3)Xに対する行政処分の公表が札幌市およびXのホームページに限られていたこと、(4)本件処分の理由がサービス内容によるものではなく個別支援計画を適切な時期に作成していなかったことによる給付金の不正受給にとどまることなどから、(5)それだけでは信頼関係の破壊があったとは認められないとしました。ただし、(6)Xが本件処分を受けたことにより、Y1の事業所において入居者の減少といった直接的影響があったといえるのであれば、信頼関係が破壊されると認めうる、としています。その上で、(7)Y1の事業所における入居者数の推移及びその原因を具体的に認定して、(8)Y1の事業所において本件処分を原因とする入居者への影響があったとはいえない、(9)そうすると、信頼関係の破壊があったとは認められない、と述べ、Y1からの解除を認めず、Xからの違約金等の請求を認容しました。
(1)ないし(4)から(5)の評価を導いたことについては議論の余地があるもの思われます。一般論を述べるならば、顧客(本件のXでいえば、サービスの提供を受けている利用者やフランチャイジーであるY1)及び行政に対する誠実さを含め、コンプライアンスに対する姿勢は契約相手を決定する上で重要な事項です。したがって、信頼関係の破壊を判断する上で、役務の質や売上の増減とは独立に、コンプライアンスに対する姿勢は考慮の対象になり得るものと考えます(たとえば、Xは、利用者に対して個別支援計画を適正に作成しておらず、行政に対して実地調査で虚偽報告をしており、Y1に対しても、Y1が本件処分の存在を認識するまで本件処分について報告していませんでした)。それが即時解除を基礎づけるだけの重要なものであるかどうかは、当事者が当該契約に何を求めていたかによって異なるものと思われます。したがって、本判決の当否を即断することは困難ですが、少なくとも、本判決の読み方として、「売上が減少していなければ信頼関係の破壊がない」といった形で単純化して理解することは適切でない、と考えます。
なお、本件は、解除事由が抽象的に定められていたことから生じた紛争でもありました。契約締結時に即時解除の原因となる事情を網羅的に定めておくことはほとんど不可能ですが、具体的にどのような事由が「契約を継続し難い相当の事由」に当たるのか、契約当事者間で協議し、文書化しておくことで紛争を回避することができたかもしれません。
本判決は、契約相手が行政処分を受けた場合でも、処分の経緯や処分の内容によっては契約を解除することができない可能性がある、ということ示した事例であり、実務上参考になるものと思われます。特に、中途解約によって違約金支払義務を負うことになる側が契約を締結し、又は契約を解除する際は、本判決の存在を視野に入れておく必要があるといえるでしょう。
本判決に対しては、控訴が提起されています。
(2026年8月20日)
2026年8月20日現在の法令に基づく解説です。
[*] 大津町法律事務所(愛知県弁護士会所属)