1.マイナンバーって何?
「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に基づいて、2016年1月から、社会保障、税及び災害対策に関する事務でマイナンバーの利用がはじまります。
この法律は、行政機関個人情報保護法、独立行政法人個人情報保護法、個人情報保護法の特例を定める法律で(1条)、法2条5項に定める「個人番号」を、マイナンバーと通称しています。
2.マイナンバー制度で事業者がしなければならない対応
マイナンバー制度の実施により、事業者には、どのような対応が求められるのでしょうか。
(1)従業員関係その1(税関係)
マイナンバー制度の実施により、事業者が最も対応を必要とすると予想されるのが、従業員関係です。
従業員関係で事業者が作成する書類(税関係)のうち、
- 給与所得の源泉徴収票
- 退職所得の源泉徴収票
- 退職手当金等受給者別支払調書
- 給与支払報告書
- 退職所得の特別徴収票
について、事業者は、従業員のマイナンバーを記載して、税務官庁に提出をすることになります。
また、事業者が作成する書類ではありませんが、従業員が事業者に提出する書類のうち、
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の配偶者特別控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
- 退職所得の受給に関する申告書
といったものについては、従業員がマイナンバーを記載して提出する必要があり、事業者は、その限りで従業員からマイナンバーの提供を受けることになります。
この場合、従業員だけでなく、従業員の配偶者や扶養親族のマイナンバーも必要になりますので、事業者は、これらの情報についても提供を受けることになります。
マイナンバーの提供を受けた事業者には、本人確認を行うことが義務付けられていますので、事業者は、その都度、本人確認等の措置をとらなければなりません(16条)(本人確認の方法については、3で説明します)。
また、マイナンバーの提供を受けた事業者は、予め定められた安全管理措置に従ってマイナンバーを管理することが求められます(12条)(安全管理措置についても、3で説明します)。
(2)従業員関係その2(社会保険関係)
社会保険関係では、例えば、
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 雇用保険被保険者資格喪失届
といった書類について、従業員のマイナンバーを記載する必要があります。
ほかにも、従業員が健康保険被扶養者(異動)届や国民年金第3号被保険者に関する届出を提出するときは、事業者が被扶養者のマイナンバーの提供を受けることになります。事業者は、前者の場合には、被扶養者の本人確認をする必要はありませんが、後者の場合には、被扶養者の本人確認まで行う必要があると考えられています(鈴木涼介「中小企業とマイナンバーQ&A」(清文社)283頁参照)。
(3)支払先関係
支払先との関係では、事業者は、
- 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
- 不動産の使用料の支払調書
- 不動産等の譲受けの対価の支払調書
- 不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
- 配当金、剰余金の分配及び基金利息の支払調書
といった書類について、支払先の個人番号(法人の場合は法人番号)を記載しなければなりません。
3.マイナンバーの取扱いで注意すべき点
マイナンバーの取扱いについて注意すべき点はたくさんありますが、主要なものとして、
- 提供の求めの制限(15条)
- 本人確認の措置(16条)
- 提供の制限(19条)
- 収集の制限(20条)
- 情報の安全管理(33~34条)
があります。
以下、順に説明します。
(1)提供の求めの制限(15条)
法律で定められた場合を除いて、他人にマイナンバーの提供を求めることはできません。
なお、ここでいう「他人」には、同一世帯に属する者は含まれません。
(2)本人確認の措置(16条)
本人からマイナンバーの提供を受けるときには、本人確認の措置をとることが義務付けられています。
本人確認にあたっては、「番号の確認」と「身元の確認」を行うことを意識しましょう。番号と身元を確認する方法としては、
- (a)個人番号カードの提示を受ける
- (b)通知カードと身元確認書類(運転免許証やパスポート)の提示を受ける
- (c)番号確認書類(住民票の写し等)と身元確認書類(運転免許証やパスポート)の提示を受ける
といったものがあります。
事業者と雇用関係にあり、人違いでないことが明らかな場合には、従業員等の身元確認は省略することができるとされています(番号の確認は必要です)。
(3)提供の制限(19条)
法律に定められた場合を除いて、マイナンバーを提供することは禁止されています。
第三者情報の提供だけではなく、自己に関する情報の提供も禁止されます。
したがって、個人事業者が支払先に対して交付する支払調書の中に支払者である自分のマイナンバーが記載されている場合、当該部分をマスキングするなどして支払調書を交付しなければ、提供制限に違反することになってしまいます(鈴木・前掲書258頁参照)。
法人番号については、このような制限はありませんので、法人である事業者の場合は、自社の法人番号をマスキングをして支払調書を交付する必要はありません。
(4)収集の制限(20条)
法律に定める場合を除いて、マイナンバーを収集・保管することは禁止されています。
(5)情報の安全管理(33~34条)
ガイドラインでは、事業規模に応じて情報の安全管理措置をとることが求められています。
事業規模は、従業員数で判断され、資本金額は考慮されないことに注意が必要です。
従業員100名以下の事業者は、中小規模事業者となり(※)、取扱規程の策定が義務付けられないなど求められる水準が若干緩和されていますが、基本的な対策についての考え方はほとんど変わりません。
具体的な対応として、
- 組織的安全管理措置(組織体制の整備、取扱規程に基づく運用)
- 人的安全管理措置(担当者の監督、教育)
- 物的安全管理措置(特定個人情報を取り扱う区域の管理、機器及び電子媒体等の盗難等の防止、番号の削除、機器・媒体の廃棄方法)
- 技術的安全管理措置(アクセス制御、不正アクセスの防止、暗号化やパスワードによる情報漏洩の防止)
などが考えられます(鈴木・前掲書189~204頁参照)。
※ 中小規模事業者 従業員100名以下であっても、a)委託に基づいて個人番号関係事務又は個人番号利用事務を業務として行う事業者(税理士や社会保険労務士もここに入ります)、b)金融分野の事業者、c)個人情報取扱事業者、d)個人番号利用事務実施者は、中小規模事業者には含まれません。
4.税理士、社会保険労務士に相談を
以上のとおり、マイナンバー制度の概要を説明してきましたが、当然ながら、これですべてを網羅しているわけではありません。
例えばマイナンバーの提供を拒まれたときはどうするのか、といった問題も残されています。
制度がはじまったばかりの段階では、混乱も予想されますので、なるだけお早めに、税理士、社会保険労務士等の専門家と相談して対応を検討することをおすすめします。
法令の解釈について疑義が生じた場合は、関係官庁や弁護士に問い合わせるなどして、リスクを低減するように努めましょう。
参考リンク:マイナンバー社会補償・税番号制度
参考文献:鈴木涼介「中小企業とマイナンバーQ&A」(ぎょうせい)
弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)
※ 2015年9月12日現在公表されている情報に基づく解説です。個別の問題につきましては、実施に先立って専門家にお問い合わせいただくことをおすすめします。