1.いろいろな時効
みなさんは、「時効」という言葉をご存じでしょうか。刑事ドラマや犯罪のニュースで話題になる「公訴時効」、物を一定の条件で一定の期間占有しているとその物の所有権が取得できる「取得時効」など、様々な種類の時効があります。
中でも、一定の状態で一定の期間が経過すると権利が消滅してしまう「消滅時効」は、事業主のみなさんにとって、最も関心がある時効ではないでしょうか。
2.時効期間の計算方法
消滅時効の期間は、弁済期があるときは、弁済期の翌日から計算します(民法166条1項、140条)。例えば、平成28年1月25日に弁済期を迎える債権は、平成28年1月26日を1日目として10年目となる平成28年1月25日が終わると、時効が完成します。
3.バラバラの時効期間
2では、10年で時効が完成すると説明しました。
これは、民法で、一般的な債権の消滅時効期間が10年とされているからです(民法167条)。
しかし、これには、商法に特則が定められています。
商法によると、商取引によって生じた債権は、5年で消滅することとされています(商法522条)。
それでは、事業主のみなさんが持っている事業上の債権は、5年の商事消滅にかかると考えてよいでしょうか。
実は、もう1つ落とし穴があります。
民法には、短期消滅時効といって、さらに一定の取引から生じる債権について、5年よりも短い時効が定められているからです。
民法の条文から、代表的なものを確認してみましょう。
- 建築工事の設計料、施工料、監理料 3年(民法170条2号)
- 生産者、卸売商人、小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権(いわゆる売掛金) 2年(民法173条1号)
- 家庭教師や習い事の謝金 2年(民法173条3号)
- 運送に係る債権 1年(民法174条3号)
- 旅館の宿泊料、料理店の飲食料 1年(民法174条4号)
ほかにもたくさんありますが、こうしてみると、取引社会で日々発生している多くの債権が、1年~3年で消滅時効にかかってしまうことがわかります。
4.民法改正ですべて5年に
しかし、このようなバラバラの取扱いには必ずしも合理性がありません。平成27年第189回国会に提出された民法の改正案では、消滅時効の期間を原則10年から原則5年に短縮し、現在の民法170条から174条までのような短い時効期間の規定を削除することが提案されています。
5.改正前の債権は?
改正法施行前に発生した債権については、附則により、従前の例によることとされています(附則10条4項)。
同一の取引によって生じた債権であっても、債権発生と改正法施行の先後により、異なった時効管理が必要になりそうです。
※ 2015年12月31日現在の情報に基づく解説です。
弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)
(この記事は、税理士法人BLUESKY事務所報2016年1月号に馬場が執筆した原稿をウェブサイト用に一部改変し、発行者の許諾を得て転載しています。)