名古屋の企業法務、離婚、相続、交通事故は、大津町法律事務所(弁護士 馬場陽)愛知県弁護士会所属

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自転車輸入・販売事業者の製造物責任が肯定された事例

自転車輸入・販売事業者の製造物責任が肯定された事例

東京地裁平成25年3月25日判決(判例時報2197号56頁)

(事案の概要)

 X1(昭和24年生、会社代表者)は、平成14年4月28日、自転車の輸入・販売を目的とするY社から、クロスバイクと呼ばれる自転車(以下「本件自転車」という)を車両本体価格7万8300円で購入した。
 X1は、平成20年8月22日、本件自転車を運転して走行中、他の自動車や歩行者と接触することなく転倒した(以下「本件事故」という)。
 本件事故後、本件自転車のフロントフォークは、サスペンション内の左右のスプリングが折損し、インナーチューブとアウターチューブが左右とも分離した状態で発見された。
 X1は、本件事故により、右側頭蓋骨骨折等の傷害を負い、平成21年6月20日に症状固定の診断を受けたが、重度の四肢麻痺を伴う神経系統の後遺障害が残存し、専門医等の所見に基づき、自賠法施行令所定の後遺障害等級第1級1号に相当すると判断された。
 X1は、Yに対し、製造物責任法3条に基づき1億7621万2339円の損害賠償を求めたのが、本件訴訟である(遅延損害金は省略)。
 この他に、X1の妻X2が固有の慰謝料(550万円)を、保険契約に基づきX1に保険金を支払った保険会社X3がYに求償を求めている(6000万円)。

(裁判所の判断)

一部認容(X1について1億4174万円、X2について330万円、X3について3883万8016円)。
 「原告X1は,本件自転車により走行中,そのサスペンションが分離し,前輪及びこれと連結しているアウターチューブが脱落したことによって,支持を失って転倒して受傷したものであるところ,以上によれば,原告X1は,本件自転車を,その特性に従い,通常予想される使用形態で使用していたのであって,購入後の経過期間,保管やメンテナンスの状況を考慮しても,本件自転車は,走行中にサスペンションが分離したという点において,通常有すべき安全性を欠いていたといわざるを得ない」
 過失相殺(1割)

(解説)

1 本判決の位置づけ

 本判決は、自転車輸入業者に対する製造物責任を肯定した裁判例です。
 裁判では、本件自転車に、製造物責任法上の「欠陥」(製造物責任法2条2項)があったか否かが争点となりました。
 本判決は、本件事故がサスペンションの分離によって生じたことを認定した上で、自転車という製造物の特性や通常予想される使用形態、引渡時期からすれば、本件事故の原因がサスペンションの分離にあることをもって「欠陥」の主張・立証は十分であり、さらにサスペンションの分離が生じた科学的機序の詳細や構造上の不具合について主張・立証する必要はない、としています。
 製造物責任訴訟における主張・立証の在り方について標準的な考え方を示したものであり、参考になるものと思われます。

2 輸入業者・販売業者の責任

 製造物責任法は、不法行為法の特別法です。製造物責任法3条は、製造物の「欠陥」に起因して他人の生命、身体、財産を侵害したときは、製造業者等の過失の有無を問うことなく損害賠償責任を認めています。
 これは、製造物を流通におくことで危険を創出した者、安全性について信頼を与えた者、そこから利益を上げている者が、それによって生じた損害に対して責任を負うべきだという考え方(危険責任、信頼責任、報償責任)によるものです。
 この無過失責任を負う「製造業者等」の範囲は、法律によって規定されています。

 まず、製造物を「製造」「加工」した業者がこれに含まれることは容易に想像がつきます
 次に、本判決の事案のように、製造物を「輸入」したに過ぎない業者も「製造業者」に含まれます(製造物責任法2条3項1号)。
 それから、販売事業者に過ぎない者であっても、「自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者」(製造物責任法2条3項2号)、「当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者」(同項3号)は、「製造業者等」として責任が認められます(同法3条)。
 典型的には、製造物に自社のブランドを表示した場合であり、OEM商品やプライベート・ブランドの販売者が想定されています。
3 過失相殺について

 本件では、1割の過失相殺が認められています。
 X1は、平成19年10月まで本件自転車を地下駐車場ないし玄関内に保管し、平成19年11月からは降雨時に強風があると雨が吹き込む軒下に保管していたようです。また、X1は、平成14年4月に本件自転車を購入してから平成20年8月まで6年4か月にわたり本件自転車のメンテナンスを一度も受けていませんでした。これらの事情から、X1にも「一定程度の落ち度」があったとされました。

4 今後の展望

 近年、一部の自治体で、自転車の安全な利用について定める条例が制定・施行されています(取手市、盛岡市、京都府、東京都など)。
 名古屋市でも、平成29年10月1日から、「名古屋市自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が施行される運びとなっています。
 例えば、名古屋市の上記条例は、「自転車利用者の責務」として、自転車利用者に、自転車の定期的な点検・整備に努めることを義務づけています(名古屋市自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例第6条4項)。
これにともなって、自転車小売業者等は、上記の周知に努めるものとされています(同条例8条)。
 このような努力義務が設けられたことで、今後、メンテナンスを怠った自転車利用者について従来より大きな過失割合が認められるのか、あるいは、告知を怠った自転車小売事業者との関係では過失割合は小さいものとなるのか、現段階では不透明です。
しかし、仮にこれらの点に影響があるとすれば、自転車利用者、自転車小売事業者のどちらにとっても、定期点検を実施することがリスクヘッジになるものと思われます。

弁護士 馬場 陽(愛知県弁護士会所属)
※ この記事は、2017年9月21日の情報に基づいています。
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