名古屋の企業法務、離婚、相続、交通事故は、外堀法律事務所(弁護士 馬場陽)愛知県弁護士会所属

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退職従業員への貸付金を給与・退職金と相殺する方法

退職従業員への貸付金を給与・退職金と相殺する方法

従業員貸付金を給与・退職金と相殺するためには従業員の同意が必要。

1.相殺は禁止されている

福利厚生の一環として、会社が従業員に金銭の貸付けをすることがあります。
従業員が退職するとき、会社によっては、貸付金と未払賃金や退職金を相殺して処理することがあるようですが、少し注意が必要です。
労働基準法は、賃金全額払い原則を定めており(労基法24条)、一方的な相殺は、これに反するおそれがあるからです。

2.同意があれば相殺できる

とはいえ、法律が禁止しているのは、あくまでも「一方的な」相殺です。
労基法24条は、会社と従業員の間の自由な意思に基づく相殺合意がある場合にまで、相殺を禁止する規定ではありません(最判平成2年11月26日民集44巻8号1085頁)。
そこで、退職まで視野に入れて貸付けをする場合には、予め、借用書に相殺を承諾する文言を入れておくとか、貸付の段階で、退職する時は給与との相殺を希望する旨の記載のある書面を差し入れてもらうとよいでしょう。
そして、実際の退職時にも、相殺に同意する書面をもらっておくと、安全です。

3.親睦会貸付金

会社によっては、会社自身ではなく、従業員親睦会等の親睦団体が従業員に金銭を貸付けていることがあります。
このとき、貸主と借主は親睦団体と従業員ですから、会社は金銭消費貸借取引の当事者ではありません。
そのため、従業員と親睦団体の間でどのような取り決めをしても、会社は、従業員に対して賃金の直接・全額払いの義務を負っていることになります。
例えば、会社と親睦団体の関係が良好な場合、会社としては、従業員に未払給与・退職金を支払うかわりに、その従業員が借りている親睦団体への借入金を弁済してあげたいと考えます。 しかし、親睦団体からの借入を会社が弁済することは、賃金の直接払いの原則(労基法24条)に反して許されません。従業員の同意・指図があっても許されないとするのが判例です(最判昭和43年3月12日民集22巻3号562頁参照)。
 したがって、会社は、従業員への親睦団体への借入を返済してあげても、この従業員から賃金を請求されれば、いったんは給与を全額支払わなければならない、という不合理な結果におちいります。

 このような不合理な結果に陥らないため、会社は、その従業員にいったん退職金を交付し、そこから従業員が親睦団体に弁済するという流れを手当てしておく必要があるのです。

4.親睦団体は利害関係人として参加を

さて、従業員との間で退職をめぐるトラブルが発生したときは、示談交渉や労働審判、労働訴訟の中で一緒に貸付金の解決を図ることを考えます。
このとき、会社と従業員の間の貸し借りであれば、当事者間の合意で和解を成立させることができます。
しかし、親睦団体から従業員への貸付金があるような場合、親睦会は退職をめぐる労働事件の当事者ではありませんから、親睦団体にも、利害関係人として話し合いや裁判手続に参加してもらう必要があります。

5.弁護士の活用を

さて、無事に合意が成立したとして、次に、示談交渉であれば和解契約書、労働審判・労働訴訟であれば、調停・和解条項の作成をしなければなりません。その過程では、会社の利害得失を正確に見極めながら、労働法上も適法な条項を作成する能力が要求されます。
とくに、利害関係人として親睦団体が参加しているような事案では、賃金支払や退職をめぐる労働実体法の知識のほかに、債権譲渡、債務引受、求償、代位、相殺といった債権法の正確な理解が求められます。また、これらの複雑な取引に関する税務の基礎的な知識も必要です。

このように、従業員貸付金をめぐるトラブルは、一見単純に見えますが、実際には、法律専門家の手腕が問われる難度の高い複雑な事件類型です。社内の法務部門のほか、労働法・債権法に精通した弁護士と十分協議しながら解決を図られることを推奨いたします。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)

2015年5月17日現在の法令に基づく解説です。

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