名古屋の企業法務、離婚、相続、交通事故は、大津町法律事務所(弁護士 馬場陽)愛知県弁護士会所属

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コロナ

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業の労務管理はどのように行われるべきか?

馬場 陽[*]

はじめに

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在宅勤務(テレワーク)を導入する企業が増えています。自社の従業員について新型コロナウイルスの感染が疑われる等の場合に企業はどのような対応をするべきか、まずは労務管理の問題から整理してみます。

1 感染が確認された従業員

 新型コロナウイルス感染症は感染症法に定める指定感染症ですので、新型コロナウイルス感染症患者は、都道府県知事が行う就業制限の対象となります。したがって、その従業員に対して休業を命じたとしても、これは「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労基法26条)には当たらず、使用者に給与支払義務及び休業手当の支払い義務はないものと考えられます(別途、傷病手当金の支給要件を満たすことは考えられます)。

2 感染が疑われる従業員

 感染の疑いはあるものの、新型コロナウイルス感染症であることが確認できない場合は、どうすべきでしょうか。まずは、感染の疑いがあるかどうかをどのようにして見分けるか、ということから確認していきましょう。

 これについては、すでに報道等でご存じの方も多いことと思いますが、厚労省「新型コロナウイルス感染症についてのよくあるお問い合わせ 令和2年2月」において、「帰国者・接触者相談センター」への相談の目安が公表されています。概ね以下のように整理できます。

  • ① 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(高齢者、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患)がある人、透析を受けている人、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている人は、2日以上続く場合)
  • ② 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合

 このような症状がある従業員については、他の従業員に対する安全配慮義務の観点から、企業は速やかに休暇の取得を促したり、在宅勤務に切り替えるなどの対応をとることが必要です(休暇は労働者の意思で取得するものですので、休暇の取得を義務付けることはできません)。従業員がいずれにも応じない場合は、業務命令として自宅待機を命じることもやむを得ないでしょう。併せて、その従業員に受診を促し、就業規則に受診命令の定めがあれば、速やかに受診を命じることも検討すべきでしょう。

 感染が確認されていないものの、感染が疑われる従業員に自宅待機を命じた場合の給与支払義務については、見解が分かれていますが、厚生労働省は、「『帰国者・接触者相談センター』でのご相談の結果を踏まえても、職務の継続が可能である方について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に『使用者の責に帰すべき事由による休業』に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。」との見解を公表しています(「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年3月19日時点版」)。

 したがって、使用者としては、まずは在宅勤務のルールを策定し、在宅で職務の継続が可能である従業員については、在宅勤務を命じるのが相当でしょう。それにもかかわらず、従業員がこれに従わないなどの場合には、その従業員から債務の本旨に従った労務の提供がないことになります。この場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労基法26条)に当たらず、休業手当を支払う義務がない場合もあると考えられます。

 以上のとおり、感染の確認ができない労働者に休業を命じる場合、使用者には休業手当の支払義務が発生する可能性があります。使用者が他の労働者に対して安全配慮義務を負っていることからすれば、感染が疑われる者と他の労働者の接触の機会を極力減らし、感染拡大の防止に努めることを優先すべきでしょう。また、使用者としてはまずは感染の確認に努めるべきであり、診療機関の受診をうながしたり、就業規則の定めがあれば受診を命じることも検討しましょう。

3 感染が疑われる従業員ではない、他の従業員への対応

 職場に感染者や感染を疑われる者が出た場合、濃厚接触者等、他の従業員への対応が問題となります。他の労働者に対する安全配慮義務の観点からは、少なくとも濃厚接触者については在宅勤務を命じ、在宅勤務が不可能な場合は自宅待機を命じるべきでしょう。職務の継続が可能な従業員に自宅待機を命じる場合は、前記②と同様、休業手当を支払う必要があると考えられます。

4 在宅勤務の進め方がわからない場合

 そうはいっても、これまで在宅勤務を実施したことがない企業も多いことと思います。これについては、厚生労働省が「テレワーク総合ポータルサイト」(https://telework.mhlw.go.jp/)を開設し、<テレワーク相談センター>(TEL:0120-91-6479[フリーダイヤル]、03-5577-4724、03-5577-4734[令和2年5月31日まで][発信者負担])、Mail:sodan@japan-telework.or.jp)、<東京テレワーク推進センター(東京都内の企業について利用可能)>(TEL:0120-97-0396  Mail:suishin@japan-telework.or.jp)等の案内を出しています。その他に、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」が公表されています。

2020年3月26日

※ この記事は、2020年3月26日の法令等に基づいて解説されています。また、賃金、休業手当の支給条件等について、法令の規定よりも労働者に有利な就業規則の規定がある場合には、就業規則の定めが優先します。個別の対応を検討されるに当たっては、就業規則のご確認をお忘れないようお気を付け下さい。


[*] 弁護士、大津町法律事務所(愛知県弁護士会)