はじめに
令和2年(2020年)4月1日から、改正民法(平成29年法律第44号)が施行されます。
平成29年(2017年)改正で変更された事項の1つに、消滅時効制度があります。今回は、債権の消滅時効について、どのような場合に新法が適用され、どのような場合に旧法が適用されるのかを説明します。
1 改正法の内容
債権の消滅時効に関する新条文は、次のとおりです(なお、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、民法724条に規定がおかれています)。
第166条
1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
2(以下略)
2 改正の要点
改正前の民法は、166条1項で「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」と定め、167条1項で、「債権は、10年間行使しないときは、消滅する。」と規定していました。
したがって、平成29年(2017年)民法改正により、消滅時効期間は「主観的起算点から5年、客観的起算点から10年」というルールに変更された、ということができます。
また、この改正に伴い、民法170条~174条(旧規定)に定められていた短期消滅時効制度が廃止され、商事消滅時効の規定(商法522条)が削除されたことも、重要な変更点です。
3 附則(平成29・6・2法44)
それでは、施行日をまたいで存在する債権の消滅時効は、どのように考えるべきでしょうか。
附則10条4項は、「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。」と定めています。
しかし、ここで注意をしなければならないのが、「施行日前に債権が生じた場合」の意味です。というのも、附則10条1項は、「施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。以下同じ。)におけるその債権の消滅時効の援用については、新法第145条の規定にかかわらず、なお従前の例による。」と規定しており、附則10条4項の「施行日前に債権が生じた場合」についても同じ定義があてはまることになるからです。
したがって、消滅時効に関する改正法の規定は、(1)施行日前に債権が生じていた場合はもちろん、(2)施行日後に債権が生じた場合であっても、その原因である法律行為が施行日前にされているときは、適用されない(従前の例による)ということになります。
4 具体例
具体例を挙げると、次のようなことになります。
[例]請負契約の報酬請求権は、特約がない限り、仕事を完成したときに発生します(民法632条)。したがって、2020年3月1日に請負契約を締結し、2020年5月1日に完成した仕事の対価(請負報酬)の請求権は、施行日(2020年4月1日)より後に発生した債権ということになります。しかし、その原因である法律行為(請負契約)が施行日前にされているので、この債権については旧規定の170条2号が適用されます。したがって、この債権については、権利を行使することができる時(通常は、2020年5月1日)から3年の経過をもって、消滅時効が完成することになります。
5 契約の自動更新の場合は?
業務委託契約等において、自動更新条項が設けられていることがあります。新法施行前に締結され、新法施行後に更新された契約については、新法・旧法のどちらが適用されることになるのでしょうか。
この点について、附則には明文の定めはなく、非常に難しい問題であるといえますが、現時点で最も有力な見解は、何らかの合意によって更新されたといえるもの(たとえば、業務委託契約等)については更新後の契約について新法を適用し、法令によって強制的に更新されたといえるもの(たとえば、借地借家法26条1項によって更新された建物賃貸借契約)については更新後も旧法を適用する、と考えるようです(筒井健夫・村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018年)383頁参照)。
2020年3月25日
馬場 陽
大津町法律事務所(愛知県弁護士会)
※ この記事は、2020年3月25日時点の法令に基づいて解説をしています。