名古屋の企業法務、離婚、相続、交通事故は、大津町法律事務所(弁護士 馬場陽)愛知県弁護士会所属

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有責配偶者

有責配偶者からの離婚請求が認められる条件

有責配偶者からの離婚請求は認められないのが原則ですが、一定の条件の下で認められる場合があります

1.有責配偶者からの離婚請求は信義則違反

 裁判離婚は、民法770条1項が定める離婚原因があったときでなければ、認められません。
具体的には、

  1. 配偶者に不貞な行為があったとき
  2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  3. 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

のいずれかに該当する場合に限って、裁判離婚が認められます。
 それでは、上記1~5の事情がある場合であれば、必ず離婚請求が認められるのでしょうか。
 これに対する回答は、「否」です。
 上記1~4に当たる場合であっても、「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは」裁判所は離婚請求を棄却できるとされています(民法770条2項)。
 また、上記1~5に該当する場合であっても、そのような事情を作り出したことに責任のある配偶者(いわゆる有責配偶者)からの離婚請求は、信義則に反して許されないとするのが我が国の判例です(最判昭和29年12月14日民集8巻12号2143頁)。

2.有責配偶者からの離婚請求が認められた事例

 とはいえ、有責配偶者からの離婚請求は、常に認められないというわけではありません。
 例えば、

  1. 別居が相当の長期間に及び
  2. 夫婦間に未成熟子がいない場合には
  3. 相手方配偶者が離婚により経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り

有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないものとすることはできないとした最高裁の大法廷判決があります(最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)。
 その後の最高裁判決も、基本的にはこの定式に従っており、上記の三要件が満たされた場合には、有責配偶者からの離婚請求であっても認められる可能性があると考えられています。

3.別居期間の目安は7~10年

 それでは、「相当の長期間」とは、どのくらいの期間をいうのでしょうか。
 過去の最高裁判決を総合すると、7年~10年くらいの別居期間が、有責配偶者からの離婚請求が認められる限界ではないかといわれていますが、定まった見解があるわけではありません。
立法論としては、5年間の別居で離婚を認めるべきとする提案も有力です。

4.最後は総合判断

 もっとも、最近では、これらよりもはるかに短い別居期間で有責配偶者からの離婚を認めた下級審裁判例も少数ながら登場しています(*1)。
 これらの下級審判決が今後裁判例の主流になるのかはわかりませんが、少なくとも、裁判所は、別居期間から直ちに離婚の成否を判断しているのではなく、別居期間を含めた諸事情を総合的に判断して離婚の成否を判断しているということは確かなようです。
 いずれにしても、婚姻関係の破綻、有責性の有無、信義則違反の有無等は、法的評価をともなう判断となりますので、判断に迷ったときは、専門家に助言を求められることを推奨します。

(*1) これらの裁判例については、馬場陽「不貞行為をした有責配偶者の離婚請求に関する最近の裁判例」家族法研究Vol.11(2015年6月号)1~8頁(愛知県弁護士会研修センター運営委員会 法律研究部家族法チーム発行)で詳しく紹介しています。

※ 2015年7月2日現在施行されている法令に基づく解説です。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)

不倫(不貞行為)の慰謝料の相場はいくら?

慰謝料に相場はないが、100万~300万円が多い

1.不倫(不貞行為)の慰謝料に相場はない

 不倫(不貞行為)は、民法709条にいう不法行為にあたり、不倫をした配偶者と不倫相手は、不倫をされた配偶者に対して慰謝料を支払わなければなりません。
 このことは、今では、かなり広く知られるようになりました。
 それでは、不貞慰謝料の「相場」は一体いくらなのでしょうか。
 結論からいうと、今のところ、どのような事案にもあてはまる「相場」のようなものはありません。

2.裁判例で多いのは100~300万円

 とはいえ、裁判になれば、ある程度の傾向というものがみられます。
 最近の裁判例では、100万円から300万円の慰謝料を認めたものが多いようです。
 少数ではありますが、400万円、500万円の慰謝料を認めた裁判例もいくつか存在しています。
 この損害賠償債務は、不貞配偶者と不倫相手の不真正連帯債務です。学説では、不貞をした配偶者のほうが第三者である不倫相手よりも責任が重いと考えるのが一般的です。
 これらの傾向は、現時点での婚姻に対する社会の価値観を反映したもので、今後、社会の価値観に変化があれば、慰謝料の額もその影響を受けて変動するものと予想されます。

3.弁護士費用や調査費用の一部を支払ってもらえる

 次に、不貞の慰謝料請求をするために要した弁護士費用や調査費用は、相手に支払ってもらえるのでしょうか。
 これもよくある質問です。
 示談交渉や調停の場合、弁護士費用や調査費用を相手に負担させることはあまり一般的でなく、各自の負担とすることが多いように思います。
 これに対し、裁判をして勝訴した場合には、弁護士費用の一部や調査費用の一部が損害として認められることがあります。
 とはいえ、これも裁判に要した全額が認められるわけではなく、相当因果関係が認められる範囲が損害として認められるに過ぎませんので、注意が必要です。
 これらは、厳密には慰謝料ではありませんが、同じ不法行為による損害賠償として、慰謝料と同時に相手に請求することができます。  

4.最後は総合的判断

 結局のところ、慰謝料の額の目安を見極めるためには、不貞の時期、不貞期間、婚姻期間、不倫当時の夫婦関係、夫婦(不倫相手に請求する場合は不倫相手)の年収、不倫が婚姻生活に与えた影響、不倫をされた配偶者の精神的状態、各当事者の落ち度の程度、不倫発覚後の対応などの様々な要素を総合的に考慮する必要があります。
 すぐれて法的な判断となりますので、一度、法律専門家の意見を聞いてみることをお勧めします。

弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会)

2015年5月27日現在の法令に基づく解説です。