離婚後の生活保障としては、養育費、財産分与、慰謝料等の離婚給付のほか、年金分割や児童扶養手当、生活保護等の公的給付が考えられます。
今回は、離婚後の生活保障について考えます。離婚後の経済的生活について、考えなければならないのは、主に次の5つです。
- 1 離婚によって生じる経済的不利益
- 2 養育費
- 3 財産分与
- 4 年金分割
- 5 公的給付
それぞれについて、詳しく解説します。
1 離婚によって生じる経済的不利益
夫婦の役割分担は、家庭ごとに様々です。家庭内の役割によっては、離婚によって1人の当事者が経済的に窮地に立たされる場合があります。
例えば、結婚を機に専業主婦となり、勤務先を退職してしまった場合、離婚をしても元の勤務先に復帰できるわけではありません。配偶者の収入に生計を依存していた場合、夫婦で築いた財産や当面の生活費についてルールがないと、片方の配偶者が思わぬ不利益を受けることになります。
あるいは、結婚を機に住宅ローンを借りたものの、住宅ローンがたくさん残っている段階で離婚することになった場合、夫婦の生活のために借りたはずなのに、1人だけが負債をかかえることになってしまいます。これも、離婚によって生じる経済的不利益の1つです。
離婚によって生じるこのような不利益を緩和するため、日本の民法および社会保障法は、どのような制度を用意しているのでしょうか。
2 養育費
代表的なものに、養育費があります。夫婦が離婚してどちらかが子どもの親権者となった場合、親権者が子どもを監護・養育するのが一般的です(例外もあります)。
このような場合でも、子どもを監護していない他方の親は、子どもに対して扶養義務を負っています。そこで、子どもを監護していない親は、子どもに対する養育費として一定額を支払う義務を生じます。養育費の金額や支払期間は個々の事情によって様々ですが、一般的には、子どもが満20歳に達する月まで毎月いくらという形で支払うことが多いようです。
養育費については、私立学校や大学等の高等教育の授業料をどこまで負担しなければならないか、成人後・大学卒業までの生活費を負担する義務があるのかといった少し難しい論点もあります。これらについては、機会を改めて解説します。
3 財産分与
婚姻期間中に蓄えた財産を夫婦でどのように分けるのかという問題です(清算的財産分与)。
分与の割合は、50パーセントずつとするのが近時の主流ですが(50パーセント・ルールなどといわれています)、最近の裁判例でも、個別の事情によって分与割合を60パーセントとしたり、40パーセントとしているものがありますので、どんな場合でも画一的に50パーセントと考えるのは正しくありません。
清算的財産分与では、特有財産といって、結婚前から蓄えていた財産を夫婦の共同生活のために支出した場合、これを財産分与にあたってどのように考慮するのか、夫婦の生活のために一方の名義で負担した債務(負債)を夫婦間でどのように分配すべきか、といった難しい問題が多くあります。
これらについても、機会を改めて解説します(さしあたり、負債の問題については、馬場陽「債務の財産分与―オーバーローン不動産のケースを中心に―」をご覧ください)。
この他に、扶養的財産分与といって、離婚後の扶養的意味合いをもたせて財産分与をすることがあります。
離婚後、2年間権利を行使しないと権利が消滅します(民法768条2項但書)。この規定は、除斥期間を定めたものといわれています。
4 年金分割
年金分割という手続があります。婚姻期間中の厚生年金の掛金(標準報酬月額・標準賞与額)を夫婦間で分割する制度です。按分割合は原則として当事者間の合意によりますが(合意分割)、合意ができない場合、当事者の請求により、裁判所が按分割合を定めます。この場合、ほとんどのケースで按分割合は2分の1ずつとされているようです。
平成20年5月1日以降に離婚する3号被保険者の場合、平成20年4月1日以降の婚姻期間中の厚生年金の掛金は、当事者の請求がなくても当然に分割されます(3号分割)。
5 公的給付
離婚事件で需給を検討すべき公的給付として、児童扶養手当があります。児童手当の支給先口座も、現に子どもを監護する親に変更する必要がありますので、忘れないように手続をとりましょう。
独立して生計を立てるのが困難な場合には、社会保障一般の問題として、生活保護等の利用も検討されます。
弁護士 馬場陽(愛知県弁護士会所属)
※2015年4月26日現在の法令に基づいて解説しています。