慰謝料の他に、結納金の返還や婚礼費用の賠償を求められる可能性がある。
1.婚約破棄と損害賠償責任
将来の婚姻の約束を、「婚約」といいます。
婚約は、将来結婚する約束ですが、婚約がある場合でも、意に反して人に結婚を強制することはできません。
そのため、婚約の当事者は、財産上の契約の当事者と異なり、約束を破った相手に対し、裁判をして約束を守らせることができないのです。
しかし、それでは婚約を破棄された当事者の精神的苦痛や財産上の損害を填補することができません。
そこで、判例は、婚約の履行を強制できないかわりに、婚約破棄による損害賠償を認めてきました。
2.婚約破棄による損害賠償の要件
婚約破棄による損害賠償が認められるためには、婚約破棄に「正当な理由がない」場合でなければなりません。
あるいは、婚約が「不当に破棄された」といえる場合に、損害賠償ができると説明されることもあります。
この2つは、厳密には違う考え方に立脚していて、どちらの立場をとるかによって訴訟での主張立証構造や消滅時効の考え方が変わり得るのですが、婚約破棄の態様として考慮すべき事情には、ほとんど違いがありません。
3.正当な理由が認められる場合
それでは、裁判例において正当な理由が認められたケースには、どのようなものがあるでしょう。
代表的なものとして、「新郎として弁えるべき社会常識を相当程度に逸脱した原告の異様な言動」を理由に婚約を解消した事例があります(福岡地小倉支判昭和48年2月26日判例時報713号108頁)。
反対に、正当な理由がないとされたものとして、「その性格が全く対蹠的であることは明かである」としながらも、それだけでは婚約破棄の正当な理由がないとした事例があります(東京地判昭和32年9月6日判例時報117号12頁)。
ただの性格の不一致で婚約破棄が正当となることは少ないでしょうが、どの程度になれば正当な理由があるといえるのかについては、裁判例の正確な分析をふまえた総合判断が必要です。
4.賠償範囲
(1)慰謝料
婚約破棄による損害賠償として、精神的苦痛に対する慰謝料があります。
公表されている裁判例をみると、50万円、100万円、200万円など、かなりバラつきがあるようです。
(2)結納金
結納の趣旨にもよりますが、一般に、婚姻が成立しなかった場合には、結納金を返還してもらうことができます。
ただし、婚約を破棄した側から結納の返還を求めることは、信義に反して許されない場合があるものとされています。
(3)婚礼費用
結婚式場、新婚旅行等のキャンセル料は、婚約破棄と因果関係のある損害となり得ます。
婚礼家具や結婚を機に退職した当事者の逸失利益等については、見解が分れるところです。
購入・退職の経緯、破棄のタイミング、破棄の理由等によって、さらに細かく判断が分かれるところだと思われますので、専門家の意見を参考にすることをおすすめします。
弁護士 馬場 陽
(愛知県弁護士会所属)
2015年6月14日現在施行されている法令に基づく解説です。