リスクの高い解雇よりも、合意退職を推奨します。
1.退職の種類
従業員の退職には、大きく分けて、
- )自主退職(辞職)
- )解雇
- )合意退職
の三種類があります。同じ退職でも、それぞれ法規制の内容や雇用保険法における退職従業員の取扱い等が異なりますので、従業員の退職にあたっては、これらの点に注意して手続を選択することが必要です。
2.自主退職(辞職)
従業員の一方的意思表示によって労働契約を終了させることを、自主退職(辞職)といいます。
期間の定めのある労働契約の従業員は、やむを得ない事由がある場合、従業員は直ちに労働契約を解約することができます(民法628条)。
期間の定めのない労働契約の従業員は、いつでも退職の申入れをすることができますが、原則として2週間前の告知が必要です(民法627条1項)。「原則として」というのは、例えば月給制の従業員や年俸制の従業員については、2週間よりもさらに早い時期の告知を要するとされているからです(同条2項、3項)。
従業員からの適法な退職の意思表示があった場合、会社は、これを拒否することはできません。このことを、「辞職の自由」といいます。
3.解雇
会社の一方的意思表示によって従業員を退職させることを、解雇といいます。解雇には、
- (ア)傷病や勤務能力の不足等を理由とする普通解雇
- (イ)非違行為(ルール違反)を理由とする懲戒解雇
- (ウ)経営不振による人件費削減のための整理解雇
があり、それぞれについて解雇が有効となる要件が異なります。
従業員に「辞職の自由」があるといわれるように、会社にも「解雇の自由」があるといわれますが、我が国の判例及び労働法制は、使用者の「解雇の自由」を厳しく制限する方向で発展してきました。
その最たるものが、解雇権濫用法理と呼ばれる考え方です。解雇権濫用法理は、はじめ下級審、次いで最高裁によって認められ、長らく労働判例を支配してきましたが、ついに、平成15年の労働基準法改正、平成19年の労働契約法制定によって、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法16条)という条文に明文化されています(解雇についての考え方を知りたい方は、「中小企業の社長が解雇で気をつけること」をご覧ください)。
4.合意退職
会社と従業員の合意によって退職することを、合意退職といいます。合意退職は、退職条件を合意によって柔軟に定められることや、互いの合意の下で退職がすすめられることから、後日、紛争になりにくいのが特徴です。
しかし、互いの合意が成立しなければ効力を生じないのが難点で、仮に合意が成立したとしても、後日紛争とならないよう、合意した内容を互いに誤解のない表現で文書に起こせるかどうかといった技術的問題がありますので、法律専門家の関与の下に退職合意書を作成することを推奨いたします。
弁護士 馬場陽
(愛知県弁護士会所属)
2015年5月17日現在の法令に基づく解説です。